費用の面もさることながら、イージス・ アショアにはシステム面においても重大な懸念事項があった。
イージス・アショアは発射直後にミサイルを垂直に推進させるブー スターが付いており、そのブースター部分が上空で切り離されて地 上に落下する仕組みになっている。
ゆえにブースターの落下地点によっては、 たとえばもし市街地や住宅地に落ちるようなことがあれば、それこそ大事故につな がる可能性もある。
しかし、そもそもイージス・アショアにはブースターの落下地点をコントロールする発想は設計上まったくなく、ブースターや破片などがどこに落ちるかについては考慮されていなかった。
そこで防衛省・自衛隊は、ミサイルの速度と飛翔方向・ 上空の風向きと風速・ 落下時のブースターの姿勢を基に落下位置をあらかじめ算出し、 算出した地点にブースターを落とせるよう、 燃焼ガスを噴出するノズルの向きをソフトウェア上で変更すること によって、ミサイルの飛翔経路をコントロールしようとした。
それにも拘らず、2019年6月、秋田県をはじめとする関係自治体などに向けた防衛省の説明資料に数値の誤りが散見されることが報じられ、その直後の6月8日に秋田市で開催された説明会では、東北防衛局調達 部次長が居眠りをし、地元住民の激しい怒りを買った。
その後、新屋演習場に関しては、ゼロ・ ベースで配備候補地を選定するための再調査が、 むつみ演習場については、 付近の地形等がレーダーの遮蔽とならないかどうかを確認するため の測量調査が実施されることとなった。
その結果、ブースターを演習場内に落下させるためには、ソフトウ ェア上での修正だけでは難しいことが判明し、5月下旬には、ミサイルのハードウェアを含むシステム全体の大幅な改修が必要になることが明らかになった。
日米共同開発の弾道弾迎撃ミサイル「SM-3ブロックⅡA」には 、それまでに約12年の歳月と2000億円余り(日本側の負担額は約1, 100億円)の資金が費やされていた。
ハードウェアの改修のためには、18億ドルの追加費用と10年の 期間を要する上、ミサイル自体の能力がこれ以上向上するわけでもない。
河野防衛大臣(当時)は6月3日、そして12日にも安倍首 相と会談し、これ以上プロセスを進めてもコストに見合わず、配備 計画は中止せざるを得ない旨を伝え、15日にイージス・アショア配備計画の停止を発表するに至っ た。
(つづく)