9月3日、北朝鮮が6回目となる核実験を行い、世界を震撼させている。
「わが国を取り巻く安全保障環境は、より一層厳しさを増している」という常套句が、今日では極めてリアルに感じられる。
防衛省の発表で当初70キロトンであったとされていた爆発規模は、5日には120キロトン、そして翌6日には160キロトンに修正された。ちょうど一年前の2016年9月9日、北朝鮮の建国記念日に行われた5回目の核実験の爆発規模は11~12キロトンであったことを踏まえれば、わずか一年という短い期間に、10倍以上の威力の核開発を成功させたことになる。なお、広島に投下された原爆・リトルボーイ(Little Boy)は15キロトンであった。
今回の核実験について、朝鮮中央テレビ他、各種メディアの報道によれば、北朝鮮は水爆実験に成功したとされており、実際に公開された弾頭も水爆の形状をとっている。ただし、日本側の現時点での見解としては「水爆であった可能性は低い」(小野寺防衛大臣)というものである。
北朝鮮は2016年1月に実施した4回目の核実験の際、それが「水爆」実験であったことを公表していたが、この時それが本当に水爆であるという見解を示した専門家はほとんどいなかった。仮にそれが水爆であったとしても、約1年8か月で水爆による弾頭実験を成功するに至ったということは、異例のスピードで北朝鮮が核開発を進めている証左といえる。
核実験を強行した北朝鮮に対し、国連安保理で新たな制裁決議をめざすアメリカは、北朝鮮への石油や天然ガスの全面禁輸措置をはじめ、金正恩朝鮮労働党委員長の資産凍結等を内容に盛り込んだ安保理決議草案を各国に提示した。しかし、中国とロシアは対北全面禁輸制裁には否定的であり、アメリカがこのまま11日の採決に拘れば、特に中国の拒否権発動は免れないように思われる。
では、核開発を推し進め、ミサイル発射・核実験を繰り返す北朝鮮に対し、なぜ中国は追加制裁を加えようとするアメリカとそれに追随する国際社会に否定的な反応を示すのであろうか。
第一に、中国は21世紀の現代においても、未だに「戦国時代モデル」を地で行く国である。中国の死活的国益は共産党一党支配体制の維持であり、その行動原則はどこまでも「国益第一」なのである。
これを踏まえ、「中北関係の4パターン」を比較検討すれば、中国が北朝鮮に対する石油の全面禁輸を頑なに拒否する理由が見えてくる。
A. 統一朝鮮×親中
B. 統一朝鮮×反中
C. 分断国家×親中
D. 分断国家×反中
この中で中国にとって最悪なパターンは、朝鮮半島が統一され、かつ既存の米韓同盟を基軸とする新米国家として反中路線を選択した統一朝鮮の「B」である。朝鮮半島が今よりもやっかいな状態、つまり軍事的に強大となり、さらには間接的にアメリカと国境を接することになるというのは、中国にとってまさに「悪夢のシナリオ」以外の何物でもない。
中国の立場からすると、朝鮮半島は分断された現状が「良い」状態なのである。ゆえに、中国の朝鮮半島政策は「北朝鮮を支援して分断状態を維持」することが基本となる。
そして中国は、北朝鮮の核実験を非難する一方で、北朝鮮への過度な制裁、今回のような石油の全面禁輸などには反対する。なぜなら北朝鮮が潰れてしまっては困るからである。中国が北朝鮮の行動を非難するのは、国際社会と同調する姿勢を見せることで制裁決議決定過程に加わり、北朝鮮への過度な制裁を実行させないようにするために他ならない。
さて、ここからが本題であるが、北朝鮮はなぜ国際社会と対立することが必至である核・ミサイル開発に、これほどまでに執着するのか。あるいは、今回の核(水爆)実験の目的は何か、という点である。
日本のメディアでは、北朝鮮の行動はアメリカに対する「挑発」が目的であるとか、核・弾道ミサイル開発とその実験を繰り返す金正恩は未熟な指導者であるがゆえに「暴走」しているなどと報道されることが少なくない。たしかにそのような面も否定はできないし、実際、何らかの記念日に合わせてパフォーマンス的に実験を行っている印象も強い。だがそれ以上に念頭におくべきは、北朝鮮は中国に勝るとも劣らない「超リアリスト」国家であるということだ。
北朝鮮は政治・軍事・経済などあらゆる分野における「社会主義的強国」の建設を掲げ、軍事を最優先させる「先軍政治」を採用している。そしてその理念通り、国民が飢餓に苦しもうが軍人の食糧でさえ確保できなかろうが、核・ミサイル開発を最優先に国政を進めているのである。金正恩いわく、北朝鮮は「先軍革命路線を恒久的な戦略的路線として堅持し、軍事強国の威力を各方面から強化」していくという。
そしてその根底には「体制維持」という死活的国益が見出せる以上、北朝鮮の核兵器開発の目的は、あくまで体制を維持する上で欠かせない抑止力としての核攻撃能力を保有することにある。通常兵力ではどう足掻いてもアメリカには及ばない、現状として核戦力でもP5(Permanent 5=核保有5大国=国連安保理常任理事国)に敵わない。
そのような状況で生き残るためには、国際社会、とりわけアメリカの脅威となる核兵器の開発を最優先に進めるのが合理的である。また、核を開発したのであれば、それを飛ばすミサイルの開発も必要になる。そして核・ミサイル開発には段階的に乗り越えなければならないいくつかの技術的な関門があり、それを一つ一つ着実にこなしていくことで実践配備が可能となる。
ひとたび核兵器とICBMが完成し、実践配備されてしまえば、アメリカも簡単に手出しはできなくなる。アメリカは核による反撃を何よりも恐れるからである。そしてそこに核抑止が成立する。
アメリカの同盟国であるお隣りの韓国、そして日本に核はない。さらに米海軍では2013年に核攻撃型のトマホーク巡航ミサイルが退役、第7艦隊は空母も水上艦も核兵器能力を落としている。ゆえに核兵器を実戦配備することによって「恐怖の均衡」をつくり出し、恒久的な体制維持を図ること。それこそが北朝鮮のねらいであると見ることができる。