ロシア・ウクライナ戦争から何を学ぶか

ロシアがウクライナに対して軍事侵攻を開始してから2カ月が経過した。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、戦争終結のために自国領土をロシアに譲り渡す気はないと徹底抗戦の構えを見せており、一方でプーチン大統領が侵略の失敗を認めて撤退するとは考え難い以上、両国の攻防戦には終わりが見えない。
 
無論、他国の主権と領土を脅かし、人々の生命を無残に奪うロシアの一方的な力による現状変更、侵略戦争は決して許してはならないものである。
 
 
20世紀の二つの世界大戦は、力の行使のコストの大きさと、それがもたらす苛烈さを明らかにし、その結果として国連体制の下、各国による力の行使に制限を加えることで、世界は平和と安定を希求してきた。
 
加盟国の行動原則を示す国連憲章第2条は、国際紛争は平和的手段によって解決しなければならず、武力による威嚇および武力の行使も許されないと定めているが、ロシアの行動は明らかにこれを踏みにじり、国際秩序の根幹を揺るがしかねないものである
 
また、ロシアは開戦法規(jus ad bellum)のみならず、民間人を無差別に攻撃するなど交戦法規(jus in bello)をも無視する行動をとっている(※1)
 
(※1)国際法では、文民と民用物に対する攻撃は禁止されている(軍事目標主義。ただし、軍事目標に対する攻撃に伴って生じる巻き添え損害に関しては、過度でなければ合法とされる)。また、敵国戦闘員に対して「過度の傷害や無用の苦痛」を与えてはならない(ハーグ陸戦条約、特定通常兵器使用禁止制限条約など)とされるが、たびたびメディアで取り上げられるクラスター弾の使用については、その禁止条約にロシアは批准していない。
 
さらには子供を含む多くの市民を虐殺し、民家に押し入って略奪行為を働くなど、ロシア軍将兵は残虐な戦争犯罪を繰り返しているとされる。
 
国連安保理常任理事国であるロシアが、国際法に真っ向から反する姿勢を見せている以上、国連加盟国はロシアを徹底的に糾弾し続け、史上類を見ない規模の強力かつ包括的な経済制裁で追い込み、今後のロシアの出方次第、とりわけ懸念される化学・生物・核兵器の使用が認められるような場合には「必要なあらゆる措置(to use all necessary means)」を講じてプーチン大統領の意志を挫かなければならない。
 
無論、エスカレーション・コントロールに失敗し、世界大戦に発展することを望む者は、ほんの一部の人間を除いて全世界でもそうはいないはずである。
 
しかし、何が何でも大戦を回避しようとするあまり、武力による制裁というオプションを完全に排除してしまえば、ロシアに付け入る隙を与えるだけでなく、結果的により多くのウクライナの人々の命を犠牲にしかねない。
 
ロシアの侵略行為に宥和的な態度をとってしまえば、あるいはこの侵略戦争からロシアに何らかの成果を得させてしまえば、それは戦後築き上げられてきた国際秩序や国際規範を否定することと同義であり、同時に多くの国にとって自国の戦後外交の歩みを自己否定することになる。
そういった意味においても、国際的なプーチン包囲網の更なる強化は必至であろう。
 
 
日本はどうか。
 
岸田首相は、ロシアがウクライナ侵攻を開始した2月24日、ロシアの行為は「国際秩序の根幹を揺るがすもの」であると非難し、その後は各国と歩調を合わせるようにして矢継ぎ早にロシアへの経済制裁を打ち出している。
 
また、4月11日の自民党役員会では、紛争のエスカレーションや長期化によって「原油や食料の価格高騰で国民生活に痛みが増すこともありうる」と指摘した上で、「世界が秩序か混乱かという一大岐路にたっていることを国民に丁寧に説明し、協力をお願いしていく」と述べ、今後も全面的にウクライナを支援していく考えを表明している。
 
国際的な連携の下、自国にとっての不利益をも覚悟の上でウクライナを支援し、ロシアに対する圧力を強化していくことは、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を提唱し、ルールに基づく国際秩序の構築と地域の安定・繁栄を牽引していく立場にある日本にとって、むしろ国益に適う合理的な選択であると言えよう。
 
 
さて、今回の侵略戦争から現時点で日本が学ぶべきことは何か。
ここでは三点だけ触れておきたい。
 
第一に、自分の国は自分で守らなければならない、という厳然たる事実である。
 
「日本には日米同盟があるから、何かあればアメリカが助けてくれる」と言う人は少なくない。
 
はたして本当にそうだろうか。
 
日本に小規模な侵略があった時、たとえば尖閣諸島をめぐり日中で「軍事接触があった場合に米軍が介入して助けてくれるかどうかは、実際のところその時になってみなければわからない。
 
ウクライナのように、自国を守るために必死に抗戦してはじめて他国が援助してくれるのであり、それは日米同盟のある日本も同じである。
 
第二に、通常戦力による抑止、いわゆる懲罰的抑止力を整備していくことの重要性である。
 
懲罰的抑止とは、簡単に言えば相手の攻撃そのものに対する防御・反撃の威嚇によって、攻撃が成功しないと思わせることで攻撃を思いとどまらせる形の抑止を指す(※2)
 
(※2 )より正確には、「敵の領土拡大を否定する能力による抑止」である。(Glenn H. Snyder, Deterrence and Defense: Toward a Theory of National Security
 
一度でも領土への侵入を許してしまえば、敵を撤退させることは非常に困難であり、そのために掛かるコストは侵攻を抑止するために要するコストに比べ圧倒的に割高であろう。
 
中国・ロシア・北朝鮮と、安全保障上の脅威が現実的に差し迫る日本において、通常戦力の増強による抑止力の向上は、これまで以上に重要性が増していくように思われる。
 
第三に、国際法は守るに越したことがないということ、いわゆる「reputation cost」の問題である。
 
今回のウクライナ侵攻によって、ロシアの国際的地位・信用は地に落ちたも同然である。
2008年のジョージア侵攻と南オセチア独立、2014年のクリミア併合および東ウクライナ紛争のいずれにおいても国際社会の反発はそれほど強くなかったこともあり、プーチンもここまで「世界の敵」になってしまうとは思っていなかったかもしれない。
 
とは言え、ロシアは1994年のブタペスト覚書、1997年のロシア・ウクライナ平和友好条約という二つの二国間合意を反故にし、ウクライナの主権・領土・国民の生命を蹂躙すると同時に、多国間の国際的な規範を無視し、現代において最も守られるべき国連憲章第2条に反したわけであるから、それ相応の憂き目を見ることになるはずである。
 
そして何より、一度失った信用を取り戻すことの難しさを考えれば、やはり国際的な規範は遵守すべきだ。
 
 
混迷を極めるウクライナ情勢であるが、ウクライナが祖国防衛戦争に一日でも早く勝利することを願うとともに、デッドロックに陥ったプーチン大量破壊兵器を使用し、第三次世界大戦へ…という最悪のシナリオが現実のものとならないことを切に願う。
 

北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか⑥

 
9月15日正午過ぎ、北朝鮮は今年に入って5回目となるミサイル発射実験を行い、短距離弾道ミサイル2発が石川県・能登半島沖の舳倉島から北に約300キロの海域、日本の排他的経済水域EEZ)内に落下した。
 
北朝鮮による弾道ミサイル発射は今年3月25日以来、約半年ぶりであり、日本のEEZへの落下は2019年10月以来である。
 
今回発射された2発のミサイルは、通常の弾道ミサイルのような放物線軌道ではなく、一度下降した後に再び上昇する変則的な軌道を描くものであった。
 
そのため、発射直後の政府による発表では「日本のEEZ外に落下したと推定」されていたが、その後の分析で落下地点が修正されることとなった。
 
韓国聯合ニュースは、変則軌道の新型短距離弾道ミサイル「KN23」の改良型である可能性を示唆している。
 
なお、北朝鮮は9月11日から12日にかけて、飛行距離1500キロの新型長距離巡航ミサイルの発射に成功したことを公表しているが、北朝鮮の意図としては、一連のミサイル発射実験を通じて軍事力の増強を誇示し、アメリカを挑発することで、具体的な非核化措置をとることなく、経済制裁の解除ないし対米交渉における優位を引き出そうとしていると見ることができる。
 
現時点では、北朝鮮に日本を攻撃する意図があるとは思えないが、日本にとって北朝鮮のミサイルが深刻な安全保障上の脅威であることに変わりはない。
 
たとえ示威を目的としたミサイル発射実験にせよ、もし北朝鮮が「手元を狂わせた」として、そしてもし日本が迎撃に失敗したとしたらどうなるだろうか。
 
実際、変則軌道ミサイルの迎撃は通常の弾道ミサイルに比べ格段に難しいとされる。
 
非核化することなく、アメリカの妥協を引き出そうとする北朝鮮は、今後もSLBM(潜水艦発射型ミサイル)や長射程ミサイル、変則軌道ミサイル等の更なる開発を進めていくと見られる。
 
日本にとっての安全保障上の脅威は、増大の一途を辿っていく。
 
一方で、イージス・アショアの導入断念以降、日本のミサイル防衛は足踏み状態が続いている。
 
何より、「厳重に抗議するとともに、強く非難する」以外に取り立てて何かするわけでもない日本は、北朝鮮に舐められている。中国やロシアも同様であろう。
 
このような現状について、すなわち国際社会における今の日本の立ち位置(周辺国からの見られ方)に対し、日本国民は何を感じ、どう考えているのだろうか。
 
繰り返しになるが、すべての周辺国・地域 (中国・ロシア・北朝鮮・韓国・台湾)が中距離弾道ミサイルおよび巡航ミサイル保有している状況の中で、日本も相応の抑止力・防衛力を整備することは極めて合理的な政策判断である。
 
ミサイル防衛であれば、まずは敵基地攻撃能力を保有すべきだ。
 
そしてその上で、専守防衛という「自衛隊殺し」な過去の遺物を放棄し、政治的合理性を考慮しつつ、軍事的合理性の極大化を図ること。日本の安全保障戦略の根幹を成すべきはそれであろう。
 
無論、それが平和主義の放棄であるとか、軍国主義への道であるという批判は当を得ない。
 
すべては日本の平和のため、再び戦争の惨禍が起ることのないやようにするためである。
 

北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか⑤

 
日本は敵基地攻撃能力を持つべきであり、そのための議論を今後も続けていかなければならない。
 
そう言うと、日本が敵基地攻撃能力を保有することには、よほど大きなメリットがあるように思われるかもしれない。
 
では、「敵基地攻撃能力」の効用とはいかなるものか。
 
第一に、「より安全なオプション」としての機能が挙げられる。
 
ミサイル防衛(MD)は「多層防衛」として捉えることが何より重要であり、相手に攻撃を思いとどまらせる「抑止」、ミサイル発射後の「迎撃」(これはさらに発射直後の「ブースト段階」、大気圏外を飛んでいる間の「ミッドコース段階」、大気圏に再突入してから着弾直前までの「ターミナル段階」の3段階に分けられる)、そして迎撃に失敗した場合の「国民保護」あるいは「被害管理」に至るまで、全ての面で万全を期すことが求められる。
 
配備計画が撤回されたイージス・アショア、あるいはイージス艦は、相手が発射したミサイルが「ミッドコース段階」に達したところで迎撃するものであり、それを撃ち漏らした場合に「ターミナル段階」で迎撃するのが地対空誘導弾ペトリオットミサイル(PAC-3である。
 
イージス・アショアの配備計画において、ブースト切り離し時の落下位置の問題が大きく取りざたされていたが、「ターミナル段階」で迎撃するPAC-3は、落下物に関しても着弾に関しても、「ミッドコース段階」での迎撃以上にリスクは高くなる。
 
また、防衛の大原則は自国から極力遠くで相手を叩くことであることを踏まえれば、相手がミサイルを発射する前に叩いてしまう敵基地攻撃は、ミサイル防衛においては最も合理的かつ安全なオプションであると言える。
 
第二に、「抑止力」としての機能である。
 
ここで言う抑止とは、日本が敵基地攻撃能力を持つことによって、敵に日本を侵攻しようとしても上手くいかない、目的達成は困難であると思わせるか、あるいは日本による報復行動(反撃)によって生じるであろう損害は、日本を侵攻することで得られる便益よりも却って大きくなってしまうと思わせることによって、日本への攻撃を未然に防ぐことを指す。
 
しかし抑止が有効に機能するには、抑止する側、される側の双方が費用対効果を合理的に計算する(コスト・ベネフィット分析に基づいて対外政策を決定する)能力がなければならない。
 
また、抑止する側が威嚇した報復を確実に実施することに信憑性がなければならず、同時にその信憑性を担保するに足る能力が整備されている(と被抑止側に認識される)必要がある。
 
ゆえにトップの一存ですべてが決まるような北朝鮮のような国に対して、日本の敵基地攻撃能力の保有が抑止力となるかどうかを判断することは難しい。
 
抑止の有効性、そしてTELや地下施設破壊の難しさを踏まえれば、「北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか」という問いに対し、やはり敵基地攻撃能力の保有はその解にはなり得ない(※1)
 
 
こう聞くと、軍事技術的な課題も多く、実現へのハードルが極めて高い割には、敵基地攻撃能力を保有することにはさしてメリットなどないように思われることであろう。
 
しかし、日本の安全保障という、よりマクロな視点に立てばどうだろうか。
 
敵基地攻撃能力保有、ひいては「攻撃能力」の保有は、軍拡を進め、現状変更を企図した対外強硬路線を続ける中国に対する抑止、さらには極超音速滑空兵器や極超音速巡航ミサイルといった極超音速兵器の開発を進めるロシアに対する抑止として少なからず有効に機能し得る(※2)
 
(※2)極超音速滑空兵器(Hypersonic Glide Vehicle: HGV)は弾道ミサイルから発射され、大気圏突入後に極超音速マッハ5以上)で滑空飛翔・機動し、目標へ到達する。極超音速巡航ミサイル(Hypersonic Cruise Missile: HCM)は、極超音速飛翔を可能とするスクラムジェットエンジンなどの技術を使用した巡航ミサイルを指す。極超音速兵器は弾道ミサイルとは異なる低い軌道を、マッハ5を超える極超音速で長時間飛翔すること、高い機動性を有することなどから、探知や迎撃がより困難であり、既に実戦配備済みのロシアは「あらゆるミサイル防衛網を突破できる」としている。一方、アメリカは極超音速兵器を保有しておらず、ノースロップグラマン社が攻撃用・防衛用双方の開発を進めている段階にある。
 
むしろすべての周辺国・地域 (中国・ロシア・北朝鮮・韓国・台湾)が中距離弾道ミサイルおよび巡航ミサイル保有している状況に鑑みて、日本もそれに応じた抑止力を整備することは極めて合理的な政策判断であると言えよう。
 
そして筆者が、日本は敵基地攻撃能力を持つべきであり、そのための議論を続けていくべきだと主張する理由は、来る「混迷極まる東アジアの時代」、換言すれば戦争の地政学的リスクが世界的に見ても極めて高い地域・時代において、日本が平和国家であり続けるためには「その先にあるもの」に手を付けなければならないと考えるからである。
 
敵基地攻撃能力保有のその先にあるものとは何か。
 
有り体に言えば、「専守防衛を棄てる」ということである。
 
上で「攻撃能力」の保有が対中・対ロ抑止になると書いたが、現行の憲法9条、そして専守防衛の大原則の下でも実施可能な敵基地攻撃能力の保有は、将来的に攻撃能力を整備していく上での土台となる。
 
(つづく)
 

北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか④

 
敵国(具体的には北朝鮮が日本に向けて核ミサイルを発射するような事態が生じた場合に、敵のミサイル発射基地をこちらから攻撃・破壊するための「敵基地攻撃能力」を持つことによって、わが国を守ることはできるのだろうか。
 
結論から言うと、敵基地攻撃能力を持ったとしても、北朝鮮の核ミサイルの脅威から日本を完全に守れるわけではない。
 
 
まず第一に、敵基地を攻撃すると言っても、肝心のミサイル基地がどこにあるのかがわからない。
 
「いやいや、日米同盟があるんだからアメリカに聞けばいいだろと思われるかもしれないが、アメリカも北朝鮮のミサイル基地がどこにあるのかを把握できていない。
 
アメリカですら完全に掴めていない目標情報を日本独自で収集するには、いったいどれだけの早期警戒衛星(偵察衛星を新たに配備する必要があるのだろうか。
 
偵察衛星だけでは限界があるので、そうなると人的情報(ヒューミント)、つまり諜報(スパイによる情報収集が鍵を握るが、北朝鮮工作員」ならぬ「北朝鮮への工作員」を送り込み、すべてのミサイル基地の場所を特定することができるのであれば、それこそ日本よりも先にアメリカがやっているはずである。
 
また、北朝鮮の核ミサイルは「輸送起立発射機」ないし「発射台付き車両」(Transporter Erector Launcher: TEL)と呼ばれる移動式の車両から発射される。
 
このTELの中には、単に山岳地帯を移動するだけでなく地下施設を移動し、ミサイルを発射するまで外からは確認しようのないタイプのものもあるため、事前に発射位置を特定することは極めて難しい
 
ひとたびミサイルが発射されれば、その位置を特定すること自体は容易ではあるが、TELはミサイル発射後、すぐに移動してしまう。
 
「トマホーク(巡航ミサイル)ならどうか」という意見もあるが、たしかに巡航ミサイルは命中精度については申し分ないものの、最新発展型「タクティカル・トマホーク」でさえ、その巡航速度は880km/h程度であり、移動発射型の核ミサイルの脅威を阻止するという目的を考えると、速度が遅すぎて使えない。
 
 
では動かない(固定された)ミサイル基地の方はどうかというと、一般的に地下施設の場合はかなり頑丈に造られるため、これを通常弾頭で破壊するのは至難の業である。
 
となれば、映画『シン・ゴジラ』でB-2(ステルス戦略爆撃機)から投下され、6発のうち2発ゴジラにダメージを与えることに成功した「MOP2」のような大型貫通爆弾(※1)を用いるか、もしくは原爆を使って破壊するしかないが、特に後者については、日本が敵基地攻撃能力を有効化するために原爆を保有することなど、多くの日本国民は納得しないであろう。
 
(※1)大型貫通爆弾(Massive Ordnance Penetrator: MOP)は強固な地下要塞・地下弾道ミサイル・地下指令所の精密破壊用に開発されたバンカーバスター(硬化目標や地下の目標を破壊するために用いられる航空機搭載爆弾のこと)で、アメリカ空軍の戦略爆撃機B-2とB-52Hに搭載され、実践配備されている。誘導にはGPSを使用するため、精密誘導が可能な「スマート爆弾」である。
 
さらに、もし日本が敵基地攻撃を仕掛けるのであれば、相手の反撃(第二撃)を受けることがないよう、北朝鮮保有するノドン」や「スカッドER」といった日本を射程に収める弾道ミサイル数百基を全て破壊する必要がある。
 
北朝鮮による報復攻撃は、まず間違いなく核弾頭が搭載されることが予想され、そのうち一発でも迎撃に失敗するようなことがあれば日本は「火の海」となり、数十万から数百万人規模の国民が犠牲になる。
 
それは日本にとって「耐え難い損害」であり、何より75年前の惨劇が繰り返されるようなことはあってはならない。
 
日本のいかなる安全保障政策も、「戦争をしない・させない国」であり続けることに収斂されるべきである。
 
そうであるなら、やはり敵ミサイルを全て殲滅する以外にない。
 
そして数百基の敵ミサイルを殲滅するための手段として、空爆を用いるにせよトマホークを用いるにせよ、あるいはスタンド・オフ・ミサイル(長射程巡航ミサイル)を用いるにせよ、相応の弾量を整備するための予算はどうするのかといった問題も、当然避けては通れない。
 
このように軍事技術の観点だけから見ても、敵基地攻撃能力の保有を実現する上での課題は山積みなのである。
 
また、冒頭で書いたように、たとえ敵基地攻撃能力を保有したとしても、北朝鮮の核ミサイルの脅威を無力化し、確実に日本の安全を守れるというわけではない。
 
しかしそれでも、日本は敵基地攻撃能力を持つべきであり、そのための議論を続けていくべきなのである。
 
(つづく)
 

北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか③ 

 
イージス・アショア導入のプロセス停止が発表されてから約2週間後の6月30日、自民党本部ではミサイル防衛に関する検討チーム」の初会合が開かれていた。
 
検討チームの目的は、北朝鮮や中国からの経空脅威が増大・多様化している現状を踏まえ、日本は今後いかにそれらの脅威に対応していくべきか、その具体案を政府に提言することである。
 
座長である小野寺五典・自民党安全保障調査会長をはじめ、石破茂元幹事長、中谷元防衛大臣岩屋毅防衛大臣など、歴代の防衛大臣ら15名が集い、イージス・アショアの代替策、ならびに「敵基地攻撃能力」保有の是非について議論が交わされた。
 
北朝鮮のミサイルを撃ち落とすための「イージス・アショア」の代替策の話し合いの場で、なぜ敵のミサイル基地を攻撃するための「敵基地攻撃能力」保有の話になるのか、ともすれば論点がズレているように思われるかもしれない。
 
検討チームによって「敵基地攻撃能力」保有に関する議論が行われるようになった直接のきっかけは、6月18日の総理大臣記者会見における安倍(前)総理の以下の発言にあると言われている(※1)
 
自民党内などで敵基地攻撃能力の保有を求める声が出ていることに関して)
例えば相手の能力がどんどん上がっていく中において、今までの議論の中に閉じ籠もっていていいのかという考え方の下に自民党の国防部会等から提案が出されています。我々も、そういうものも受け止めていかなければいけないと考えているので(※2)

 

(※1)「産経新聞」2020年7月1日
 
 
安倍総理のこの発言から、「敵基地攻撃能力」保有に関する議論が一気に「再燃」したわけであるが、再燃というからには、もちろんこれまでにも「敵基地攻撃能力」保有に関する議論というのは、何度も行われてきているのである。
 
近年でいえば、自民党は2009年と2013年に「策源地攻撃能力」の、2017年には「敵基地反撃能力」保有を検討する必要性がある旨、政府に対し提言している(※3)
なお、いずれも「防衛大綱」(それぞれ22大綱、25大綱、30大綱)策定に当たっての提言である(※4)
 
(※3)「策源地攻撃能力」=「敵基地反撃能力」=「敵基地攻撃能力」。
(※4)正式には「防衛計画の大綱」。日本における安全保障政策の中長期的な基本指針を示したものであり、概ね10年後までを対象としてはいるものの、近年は数年単位で改訂されている。「22大綱」は平成22年度版、「25大綱」は平成25年度版(以下略)のことである。
 
 
敵基地攻撃能力は、25大綱までは「策源地攻撃能力」と称されていたが、策源地攻撃と聞いて思い出されるのは、筆者が防大の学生時代に大変お世話になった、当時の防衛学教育学群長(空将補)である。
 
防大3年か4年の時、東大の本郷キャンパスでの学園祭(五月祭)で開催される、東京大学国家安全保障研究会主催の公開討論会にお招き頂いた。
 
先方から提示されたテーマは「BMD」(弾道ミサイル防衛)で、「あえてこちらの十八番をテーマに指定してくるとは、さすが東大は違うな~」などと思ったものである。
 
そして、その討論会の基調講演を務められたのが、当時の防衛学教育学群長であった。
 
学群長は本番当日までの準備期間、「防大生がBMDをテーマにしたディベートで東大生に負けるようなことがあってはならない!」と、勉強会や打合せを何度も開いてくださり、BMDだけでなく、防空の最前線の現況や、いま空幕(航空幕僚監部)では何が議論されているのか、ファイター・パイロットとしての矜持、指揮官に求められるものは何かなど、実に貴重なお話をしてくださった。
 
今思えば、学群長と過ごした時間は、防大4年間の中でも実は最も得難い体験であったといえる(当時は「学群長、おしゃべり好きだな~」くらいにしか思っていなかったが…)。
 
「策源地攻撃」と聞いて学群長を連想するのは、お会いする度に「イージス艦PAC3も大事だけど、やっぱり策源地攻撃だよ!」と仰っていたからである。
 
星野学生は策源地攻撃、どう思う?」
「いいとは思うのですが、北朝鮮のTEL(※5)をどうやって捉えるかですよね」
 
というようなやり取りを何度も繰り返していたので、筆者は密かに「策源地攻撃空将補」と(心の中で)呼んでいた。
 
(※5)Transporter Erector Launcher の略。輸送起立発射機。発射台付き車両とも言われる。地上発射型のミサイルを搭載して輸送し、発射時に搭載したミサイルをそのまま起立させて発射する。
 
 
さて、そんな学群長であるが、これがまたもの凄く男前であり、そしていつも笑顔で気さくに接してくださった。
 
ある日、学群長室に呼ばれたので行ってみると、学群長が満面の笑みを浮かべながら「さっきケーキとお菓子をたくさん買ってきたから、みんなで食べよう!」と、空将補からまさかのおもてなしを賜ってしまった。
 
聞けば、ご自身で車を運転されて買い出しに行かれたという。
 
世の中、自分より立場が下の人間に対する態度が露骨に酷い人間はごまんといるが、「偉くなってもこんな人もいるんだな、かっこいい!」と驚いたことを覚えている。
  
 
そして何を隠そう、この学群長、後の航空総隊司令官(空将)である。
 
航空総隊司令部とは、航空自衛隊の戦闘機部隊および高射部隊、警戒管制部隊などの航空戦闘部隊を一元的に指揮・統括している組織であり、その最高指揮官である航空総隊司令官は、まさに「日本の防空最前線のトップ」である(※6)
 
(※6)航空自衛隊の最高位は航空幕僚長であり、航空総隊司令官は航空幕僚長に次ぐ事実上ナンバー2の地位であるとされる陸上自衛隊では陸上総隊司令官(陸将)、海上自衛隊では自衛艦隊司令官海将)が同等のポストに当たる。
 
 
学群長が航空総隊司令官になられたのは、筆者が自衛隊を辞めてから数年以上経ってからであるが、それを偶然にも知った時、「ああ、そりゃそうだよな」という感想が湧いてきた。
 
自衛官に限らず、今まで会ったすべての人の中で、最も「かっこいい男」のうちの一人がこのお方である。
 
なお、学群長が航空総隊司令官のポストを最後に退官された際に書かれた記事を見つけたので、興味がある方はぜひお読み頂きたい。
 
 
話が横道に逸れてしまったが、次回は「策源地攻撃能力」、もとい「敵基地攻撃能力」保有に関する議論について、あらためて考察したい。
 
(つづく)
 

北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか②

 
費用の面もさることながら、イージス・アショアにはシステム面においても重大な懸念事項があった。
 
イージス・アショアは発射直後にミサイルを垂直に推進させるブースターが付いており、そのブースター部分が上空で切り離されて地上に落下する仕組みになっている。
 
ゆえにブースターの落下地点によっては、たとえばもし市街地や住宅地に落ちるようなことがあれば、それこそ大事故につながる可能性もある。
 
配備候補地の一つであった陸上自衛隊・むつみ演習場(山口県)近隣の地元住民、および山口県はブースターが住宅地に落下する事態を危惧していた。
 
しかし、そもそもイージス・アショアにはブースターの落下地点をコントロールする発想は設計上まったくなく、ブースターや破片などがどこに落ちるかについては考慮されていなかった。
 
そこで防衛省自衛隊は、ミサイルの速度と飛翔方向・上空の風向きと風速・落下時のブースターの姿勢を基に落下位置をあらかじめ算出し、算出した地点にブースターを落とせるよう、燃焼ガスを噴出するノズルの向きをソフトウェア上で変更することによって、ミサイルの飛翔経路をコントロールしようとした。
 
ソフトウェアの改修にあたり、アメリカ側との調整も進めていた。
 
 
2018年8月以降、防衛省山口県の関係自治体、そしてむつみ演習場近隣の地元住民に対し「演習場内に確実に落下させる」と繰り返し説明しつつ、必要な措置を講じることを約束するとともに、もう一つの候補地である陸上自衛隊・新屋演習場(秋田県)から発射するミサイルについては、一貫して「ブースターは海に落下する」と説明してきた。
 
だが配備候補地となった2県の地元住民からは、ミサイル発射時のブースターの落下に対する危惧だけでなく、敵の標的になる可能性やレーダーの電磁波による健康被害を不安視する声も上がっており、また一部では抗議デモや署名などの反対運動も起きていた。
 
それでも閣議決定されたイージス・アショアの配備を実現するために、防衛省には地元住民から配備に対する理解と協力、そして何より信頼を得るべく、真摯で誠実な対応が求められたのは言うまでもない。
 
それにも拘らず、2019年6月、秋田県をはじめとする関係自治体などに向けた防衛省説明資料に数値の誤りが散見されることが報じられ、その直後の6月8日秋田市で開催された説明会では、東北防衛局調達部次長が居眠りをし、地元住民の激しい怒りを買った。
 
たび重なる防衛省の不手際に不信感を抱いた秋田県佐竹敬久知事は、6月10日の県議会で話は振り出しに戻った」と述べ、防衛省との協議を白紙に戻す考えを表明した。
 
6月17日には岩屋毅防衛大臣当時)が秋田市を訪れ、佐竹知事や秋田市の穂積市長と会談し、直接謝罪を行っている。
 
また同月、山口県向けの説明資料に関し、むつみ演習場の北西に所在する西台の標高について国土地理院のデータと異なる数値が記載されていたことも明らかになった。
 
その後、新屋演習場に関しては、ゼロ・ベースで配備候補地を選定するための再調査が、むつみ演習場については、付近の地形等がレーダーの遮蔽とならないかどうかを確認するための測量調査が実施されることとなった。
 
 
2020年を迎え、まもなくアメリカ側が実施した技術的な分析・評価から得られたより精度の高い情報をもとに、防衛省内で緻なシミュレーションが行われた。
 
その結果、ブースターを演習場内に落下させるためには、ソフトウェア上での修正だけでは難しいことが判明し、5月下旬には、ミサイルハードウェアを含むシステム全体の大幅な改修が必要になることが明らかになった。
 
日米共同開発の弾道弾迎撃ミサイル「SM-3ブロックⅡA」にはそれまでに約12年の歳月と2000億円余り(日本側の負担額は約1,100億円)の資金が費やされていた。
 
ハードウェアの改修のためには、18億ドルの追加費用と10年の期間を要する上、ミサイル自体の能力がこれ以上向上するわけでもない。
 
 
河野防衛大臣(当時)は6月3日、そして12日にも安倍首相と会談し、これ以上プロセスを進めてもコストに見合わず、配備計画は中止せざるを得ない旨を伝え、15日にイージス・アショア配備計画の停止を発表するに至った。
 
こうしてイージス・アショアの配備計画は立ち消えになったわけであるが、北朝鮮の核ミサイルの脅威は依然として目の前にある。
 
イージス・アショア配備の代替案が模索される中、選択肢として急浮上したのが「敵基地攻撃能力」保有であった。
 
(つづく)
 

核兵器禁止条約?こわいねこわいね…

本日10月26日の全国紙(朝日・毎日・日経・読売・産経)の朝刊では、5紙すべてが1面で(→ではなく産経は2面で、1面トップは東京新聞の方でした。すみません…)「核兵器禁止条約」が来年1月22日に発効されることを報じている。

 
核禁条約については、「北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか」シリーズのどこかで触れようとは思っていたが、せっかく今日のトップニュースになっているので一言だけ私見を述べておくと、もし世界から核兵器がなくなったら、それこそ世も末である。
 
なぜなら核兵器のない世界は「絶対戦争」を誘発しかねないからである(これについてはだいぶ補足が必要になるので、また別の記事にて詳しく書きたいと思う)。
 
核兵器がなくなればこの世界は平和に、すなわち戦争のない世界が訪れるのだろうか。
 
人類がいつから闘い、争い、奪い合い、殺し合っているのかを考えてみれば、核兵器のない世界は決してユートピアではないということは想像に難くないであろう。
 
核禁条約の目的が核のない世界の実現なのか、それとも平和な世界を実現することなのかは不勉強なのでよく知らないが、核兵器のない世界は平和な世界でないことはたしかである。
 
それをオブラートに包んだ表現が、↓の記事にある米国務省当局者の、核保有国が加わらない同条約を支持する各国は「戦略的誤りを犯している」云々であると言える。 
 
 
以上、どうせめざすなら核兵器のない世界よりも、平和な世界=戦争のない世界の方が良くない?という話でした。
 
※ちなみにタイトルの「こわいねこわいね…」は、娘(3歳)の最近の口ぐせである。