北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか⑤

 
日本は敵基地攻撃能力を持つべきであり、そのための議論を今後も続けていかなければならない。
 
そう言うと、日本が敵基地攻撃能力を保有することには、よほど大きなメリットがあるように思われるかもしれない。
 
では、「敵基地攻撃能力」の効用とはいかなるものか。
 
第一に、「より安全なオプション」としての機能が挙げられる。
 
ミサイル防衛(MD)は「多層防衛」として捉えることが何より重要であり、相手に攻撃を思いとどまらせる「抑止」、ミサイル発射後の「迎撃」(これはさらに発射直後の「ブースト段階」、大気圏外を飛んでいる間の「ミッドコース段階」、大気圏に再突入してから着弾直前までの「ターミナル段階」の3段階に分けられる)、そして迎撃に失敗した場合の「国民保護」あるいは「被害管理」に至るまで、全ての面で万全を期すことが求められる。
 
配備計画が撤回されたイージス・アショア、あるいはイージス艦は、相手が発射したミサイルが「ミッドコース段階」に達したところで迎撃するものであり、それを撃ち漏らした場合に「ターミナル段階」で迎撃するのが地対空誘導弾ペトリオットミサイル(PAC-3である。
 
イージス・アショアの配備計画において、ブースト切り離し時の落下位置の問題が大きく取りざたされていたが、「ターミナル段階」で迎撃するPAC-3は、落下物に関しても着弾に関しても、「ミッドコース段階」での迎撃以上にリスクは高くなる。
 
また、防衛の大原則は自国から極力遠くで相手を叩くことであることを踏まえれば、相手がミサイルを発射する前に叩いてしまう敵基地攻撃は、ミサイル防衛においては最も合理的かつ安全なオプションであると言える。
 
第二に、「抑止力」としての機能である。
 
ここで言う抑止とは、日本が敵基地攻撃能力を持つことによって、敵に日本を侵攻しようとしても上手くいかない、目的達成は困難であると思わせるか、あるいは日本による報復行動(反撃)によって生じるであろう損害は、日本を侵攻することで得られる便益よりも却って大きくなってしまうと思わせることによって、日本への攻撃を未然に防ぐことを指す。
 
しかし抑止が有効に機能するには、抑止する側、される側の双方が費用対効果を合理的に計算する(コスト・ベネフィット分析に基づいて対外政策を決定する)能力がなければならない。
 
また、抑止する側が威嚇した報復を確実に実施することに信憑性がなければならず、同時にその信憑性を担保するに足る能力が整備されている(と被抑止側に認識される)必要がある。
 
ゆえにトップの一存ですべてが決まるような北朝鮮のような国に対して、日本の敵基地攻撃能力の保有が抑止力となるかどうかを判断することは難しい。
 
抑止の有効性、そしてTEDや地下施設破壊の難しさを踏まえれば、「北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか」という問いに対し、やはり敵基地攻撃能力の保有はその解にはなり得ない(※1)
 
 
こう聞くと、軍事技術的な課題も多く、実現へのハードルが極めて高い割には、敵基地攻撃能力を保有することにはさしてメリットなどないように思われることであろう。
 
しかし、日本の安全保障という、よりマクロな視点に立てばどうだろうか。
 
敵基地攻撃能力保有、ひいては「攻撃能力」の保有は、軍拡を進め、現状変更を企図した対外強硬路線を続ける中国に対する抑止、さらには極超音速滑空兵器や極超音速巡航ミサイルといった極超音速兵器の開発を進めるロシアに対する抑止として少なからず有効に機能し得る(※2)
 
(※2)極超音速滑空兵器(Hypersonic Glide Vehicle: HGV)は弾道ミサイルから発射され、大気圏突入後に極超音速マッハ5以上)で滑空飛翔・機動し、目標へ到達する。極超音速巡航ミサイル(Hypersonic Cruise Missile: HCM)は、極超音速飛翔を可能とするスクラムジェットエンジンなどの技術を使用した巡航ミサイルを指す。極超音速兵器は弾道ミサイルとは異なる低い軌道を、マッハ5を超える極超音速で長時間飛翔すること、高い機動性を有することなどから、探知や迎撃がより困難であり、既に実戦配備済みのロシアは「あらゆるミサイル防衛網を突破できる」としている。一方、アメリカは極超音速兵器を保有しておらず、ノースロップグラマン社が攻撃用・防衛用双方の開発を進めている段階にある。
 
むしろすべての周辺国・地域 (中国・ロシア・北朝鮮・韓国・台湾)が中距離弾道ミサイルおよび巡航ミサイル保有している状況に鑑みて、日本もそれに応じた抑止力を整備することは極めて合理的な政策判断であると言えよう。
 
そして筆者が、日本は敵基地攻撃能力を持つべきであり、そのための議論を続けていくべきだと主張する理由は、来る「混迷極まる東アジアの時代」、換言すれば戦争の地政学的リスクが世界的に見ても極めて高い地域・時代において、日本が平和国家であり続けるためには「その先にあるもの」に手を付けなければならないと考えるからである。
 
敵基地攻撃能力保有のその先にあるものとは何か。
 
有り体に言えば、「専守防衛を棄てる」ということである。
 
上で「攻撃能力」の保有が対中・対ロ抑止になると書いたが、現行の憲法9条、そして専守防衛の大原則の下でも実施可能な敵基地攻撃能力の保有は、将来的に攻撃能力を整備していく上での土台となる。
 
(つづく)
 

北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか④

 
敵国(具体的には北朝鮮が日本に向けて核ミサイルを発射するような事態が生じた場合に、敵のミサイル発射基地をこちらから攻撃・破壊するための「敵基地攻撃能力」を持つことによって、わが国を守ることはできるのだろうか。
 
結論から言うと、敵基地攻撃能力を持ったとしても、北朝鮮の核ミサイルの脅威から日本を完全に守れるわけではない。
 
 
まず第一に、敵基地を攻撃すると言っても、肝心のミサイル基地がどこにあるのかがわからない。
 
「いやいや、日米同盟があるんだからアメリカに聞けばいいだろと思われるかもしれないが、アメリカも北朝鮮のミサイル基地がどこにあるのかを把握できていない。
 
アメリカですら完全に掴めていない目標情報を日本独自で収集するには、いったいどれだけの早期警戒衛星(偵察衛星を新たに配備する必要があるのだろうか。
 
偵察衛星だけでは限界があるので、そうなると人的情報(ヒューミント)、つまり諜報(スパイによる情報収集が鍵を握るが、北朝鮮工作員」ならぬ「北朝鮮への工作員」を送り込み、すべてのミサイル基地の場所を特定することができるのであれば、それこそ日本よりも先にアメリカがやっているはずである。
 
また、北朝鮮の核ミサイルは「輸送起立発射機」ないし「発射台付き車両」(Transporter Erector Launcher: TEL)と呼ばれる移動式の車両から発射される。
 
このTELの中には、単に山岳地帯を移動するだけでなく地下施設を移動し、ミサイルを発射するまで外からは確認しようのないタイプのものもあるため、事前に発射位置を特定することは極めて難しい
 
ひとたびミサイルが発射されれば、その位置を特定すること自体は容易ではあるが、TELはミサイル発射後、すぐに移動してしまう。
 
「トマホーク(巡航ミサイル)ならどうか」という意見もあるが、たしかに巡航ミサイルは命中精度については申し分ないものの、最新発展型「タクティカル・トマホーク」でさえ、その巡航速度は880km/h程度であり、移動発射型の核ミサイルの脅威を阻止するという目的を考えると、速度が遅すぎて使えない。
 
 
では動かない(固定された)ミサイル基地の方はどうかというと、一般的に地下施設の場合はかなり頑丈に造られるため、これを通常弾頭で破壊するのは至難の業である。
 
となれば、映画『シン・ゴジラ』でB-2(ステルス戦略爆撃機)から投下され、6発のうち2発ゴジラにダメージを与えることに成功した「MOP2」のような大型貫通爆弾(※1)を用いるか、もしくは原爆を使って破壊するしかないが、特に後者については、日本が敵基地攻撃能力を有効化するために原爆を保有することなど、多くの日本国民は納得しないであろう。
 
(※1)大型貫通爆弾(Massive Ordnance Penetrator: MOP)は強固な地下要塞・地下弾道ミサイル・地下指令所の精密破壊用に開発されたバンカーバスター(硬化目標や地下の目標を破壊するために用いられる航空機搭載爆弾のこと)で、アメリカ空軍の戦略爆撃機B-2とB-52Hに搭載され、実践配備されている。誘導にはGPSを使用するため、精密誘導が可能な「スマート爆弾」である。
 
さらに、もし日本が敵基地攻撃を仕掛けるのであれば、相手の反撃(第二撃)を受けることがないよう、北朝鮮保有するノドン」や「スカッドER」といった日本を射程に収める弾道ミサイル数百基を全て破壊する必要がある。
 
北朝鮮による報復攻撃は、まず間違いなく核弾頭が搭載されることが予想され、そのうち一発でも迎撃に失敗するようなことがあれば日本は「火の海」となり、数十万から数百万人規模の国民が犠牲になる。
 
それは日本にとって「耐え難い損害」であり、何より75年前の惨劇が繰り返されるようなことはあってはならない。
 
日本のいかなる安全保障政策も、「戦争をしない・させない国」であり続けることに収斂されるべきである。
 
そうであるなら、やはり敵ミサイルを全て殲滅する以外にない。
 
そして数百基の敵ミサイルを殲滅するための手段として、空爆を用いるにせよトマホークを用いるにせよ、あるいはスタンド・オフ・ミサイル(長射程巡航ミサイル)を用いるにせよ、相応の弾量を整備するための予算はどうするのかといった問題も、当然避けては通れない。
 
このように軍事技術の観点だけから見ても、敵基地攻撃能力の保有を実現する上での課題は山積みなのである。
 
また、冒頭で書いたように、たとえ敵基地攻撃能力を保有したとしても、北朝鮮の核ミサイルの脅威を無力化し、確実に日本の安全を守れるというわけではない。
 
しかしそれでも、日本は敵基地攻撃能力を持つべきであり、そのための議論を続けていくべきなのである。
 
(つづく)
 

北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか③ 

 
イージス・アショア導入のプロセス停止が発表されてから約2週間後の6月30日、自民党本部ではミサイル防衛に関する検討チーム」の初会合が開かれていた。
 
検討チームの目的は、北朝鮮や中国からの経空脅威が増大・多様化している現状を踏まえ、日本は今後いかにそれらの脅威に対応していくべきか、その具体案を政府に提言することである。
 
座長である小野寺五典・自民党安全保障調査会長をはじめ、石破茂元幹事長、中谷元防衛大臣岩屋毅防衛大臣など、歴代の防衛大臣ら15名が集い、イージス・アショアの代替策、ならびに「敵基地攻撃能力」保有の是非について議論が交わされた。
 
北朝鮮のミサイルを撃ち落とすための「イージス・アショア」の代替策の話し合いの場で、なぜ敵のミサイル基地を攻撃するための「敵基地攻撃能力」保有の話になるのか、ともすれば論点がズレているように思われるかもしれない。
 
検討チームによって「敵基地攻撃能力」保有に関する議論が行われるようになった直接のきっかけは、6月18日の総理大臣記者会見における安倍(前)総理の以下の発言にあると言われている(※1)
 
自民党内などで敵基地攻撃能力の保有を求める声が出ていることに関して)
例えば相手の能力がどんどん上がっていく中において、今までの議論の中に閉じ籠もっていていいのかという考え方の下に自民党の国防部会等から提案が出されています。我々も、そういうものも受け止めていかなければいけないと考えているので(※2)

 

(※1)「産経新聞」2020年7月1日
 
 
安倍総理のこの発言から、「敵基地攻撃能力」保有に関する議論が一気に「再燃」したわけであるが、再燃というからには、もちろんこれまでにも「敵基地攻撃能力」保有に関する議論というのは、何度も行われてきているのである。
 
近年でいえば、自民党は2009年と2013年に「策源地攻撃能力」の、2017年には「敵基地反撃能力」保有を検討する必要性がある旨、政府に対し提言している(※3)
なお、いずれも「防衛大綱」(それぞれ22大綱、25大綱、30大綱)策定に当たっての提言である(※4)
 
(※3)「策源地攻撃能力」=「敵基地反撃能力」=「敵基地攻撃能力」。
(※4)正式には「防衛計画の大綱」。日本における安全保障政策の中長期的な基本指針を示したものであり、概ね10年後までを対象としてはいるものの、近年は数年単位で改訂されている。「22大綱」は平成22年度版、「25大綱」は平成25年度版(以下略)のことである。
 
 
敵基地攻撃能力は、25大綱までは「策源地攻撃能力」と称されていたが、策源地攻撃と聞いて思い出されるのは、筆者が防大の学生時代に大変お世話になった、当時の防衛学教育学群長(空将補)である。
 
防大3年か4年の時、東大の本郷キャンパスでの学園祭(五月祭)で開催される、東京大学国家安全保障研究会主催の公開討論会にお招き頂いた。
 
先方から提示されたテーマは「BMD」(弾道ミサイル防衛)で、「あえてこちらの十八番をテーマに指定してくるとは、さすが東大は違うな~」などと思ったものである。
 
そして、その討論会の基調講演を務められたのが、当時の防衛学教育学群長であった。
 
学群長は本番当日までの準備期間、「防大生がBMDをテーマにしたディベートで東大生に負けるようなことがあってはならない!」と、勉強会や打合せを何度も開いてくださり、BMDだけでなく、防空の最前線の現況や、いま空幕(航空幕僚監部)では何が議論されているのか、ファイター・パイロットとしての矜持、指揮官に求められるものは何かなど、実に貴重なお話をしてくださった。
 
今思えば、学群長と過ごした時間は、防大4年間の中でも実は最も得難い体験であったといえる(当時は「学群長、おしゃべり好きだな~」くらいにしか思っていなかったが…)。
 
「策源地攻撃」と聞いて学群長を連想するのは、お会いする度に「イージス艦PAC3も大事だけど、やっぱり策源地攻撃だよ!」と仰っていたからである。
 
星野学生は策源地攻撃、どう思う?」
「いいとは思うのですが、北朝鮮のTEL(※5)をどうやって捉えるかですよね」
 
というようなやり取りを何度も繰り返していたので、筆者は密かに「策源地攻撃空将補」と(心の中で)呼んでいた。
 
(※5)Transporter Erector Launcher の略。輸送起立発射機。発射台付き車両とも言われる。地上発射型のミサイルを搭載して輸送し、発射時に搭載したミサイルをそのまま起立させて発射する。
 
 
さて、そんな学群長であるが、これがまたもの凄く男前であり、そしていつも笑顔で気さくに接してくださった。
 
ある日、学群長室に呼ばれたので行ってみると、学群長が満面の笑みを浮かべながら「さっきケーキとお菓子をたくさん買ってきたから、みんなで食べよう!」と、空将補からまさかのおもてなしを賜ってしまった。
 
聞けば、ご自身で車を運転されて買い出しに行かれたという。
 
世の中、自分より立場が下の人間に対する態度が露骨に酷い人間はごまんといるが、「偉くなってもこんな人もいるんだな、かっこいい!」と驚いたことを覚えている。
  
 
そして何を隠そう、この学群長、後の航空総隊司令官(空将)である。
 
航空総隊司令部とは、航空自衛隊の戦闘機部隊および高射部隊、警戒管制部隊などの航空戦闘部隊を一元的に指揮・統括している組織であり、その最高指揮官である航空総隊司令官は、まさに「日本の防空最前線のトップ」である(※6)
 
(※6)航空自衛隊の最高位は航空幕僚長であり、航空総隊司令官は航空幕僚長に次ぐ事実上ナンバー2の地位であるとされる陸上自衛隊では陸上総隊司令官(陸将)、海上自衛隊では自衛艦隊司令官海将)が同等のポストに当たる。
 
 
学群長が航空総隊司令官になられたのは、筆者が自衛隊を辞めてから数年以上経ってからであるが、それを偶然にも知った時、「ああ、そりゃそうだよな」という感想が湧いてきた。
 
自衛官に限らず、今まで会ったすべての人の中で、最も「かっこいい男」のうちの一人がこのお方である。
 
なお、学群長が航空総隊司令官のポストを最後に退官された際に書かれた記事を見つけたので、興味がある方はぜひお読み頂きたい。
 
 
話が横道に逸れてしまったが、次回は「策源地攻撃能力」、もとい「敵基地攻撃能力」保有に関する議論について、あらためて考察したい。
 
(つづく)
 

北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか②

 
費用の面もさることながら、イージス・アショアにはシステム面においても重大な懸念事項があった。
 
イージス・アショアは発射直後にミサイルを垂直に推進させるブースターが付いており、そのブースター部分が上空で切り離されて地上に落下する仕組みになっている。
 
ゆえにブースターの落下地点によっては、たとえばもし市街地や住宅地に落ちるようなことがあれば、それこそ大事故につながる可能性もある。
 
配備候補地の一つであった陸上自衛隊・むつみ演習場(山口県)近隣の地元住民、および山口県はブースターが住宅地に落下する事態を危惧していた。
 
しかし、そもそもイージス・アショアにはブースターの落下地点をコントロールする発想は設計上まったくなく、ブースターや破片などがどこに落ちるかについては考慮されていなかった。
 
そこで防衛省自衛隊は、ミサイルの速度と飛翔方向・上空の風向きと風速・落下時のブースターの姿勢を基に落下位置をあらかじめ算出し、算出した地点にブースターを落とせるよう、燃焼ガスを噴出するノズルの向きをソフトウェア上で変更することによって、ミサイルの飛翔経路をコントロールしようとした。
 
ソフトウェアの改修にあたり、アメリカ側との調整も進めていた。
 
 
2018年8月以降、防衛省山口県の関係自治体、そしてむつみ演習場近隣の地元住民に対し「演習場内に確実に落下させる」と繰り返し説明しつつ、必要な措置を講じることを約束するとともに、もう一つの候補地である陸上自衛隊・新屋演習場(秋田県)から発射するミサイルについては、一貫して「ブースターは海に落下する」と説明してきた。
 
だが配備候補地となった2県の地元住民からは、ミサイル発射時のブースターの落下に対する危惧だけでなく、敵の標的になる可能性やレーダーの電磁波による健康被害を不安視する声も上がっており、また一部では抗議デモや署名などの反対運動も起きていた。
 
それでも閣議決定されたイージス・アショアの配備を実現するために、防衛省には地元住民から配備に対する理解と協力、そして何より信頼を得るべく、真摯で誠実な対応が求められたのは言うまでもない。
 
それにも拘らず、2019年6月、秋田県をはじめとする関係自治体などに向けた防衛省説明資料に数値の誤りが散見されることが報じられ、その直後の6月8日秋田市で開催された説明会では、東北防衛局調達部次長が居眠りをし、地元住民の激しい怒りを買った。
 
たび重なる防衛省の不手際に不信感を抱いた秋田県佐竹敬久知事は、6月10日の県議会で話は振り出しに戻った」と述べ、防衛省との協議を白紙に戻す考えを表明した。
 
6月17日には岩屋毅防衛大臣当時)が秋田市を訪れ、佐竹知事や秋田市の穂積市長と会談し、直接謝罪を行っている。
 
また同月、山口県向けの説明資料に関し、むつみ演習場の北西に所在する西台の標高について国土地理院のデータと異なる数値が記載されていたことも明らかになった。
 
その後、新屋演習場に関しては、ゼロ・ベースで配備候補地を選定するための再調査が、むつみ演習場については、付近の地形等がレーダーの遮蔽とならないかどうかを確認するための測量調査が実施されることとなった。
 
 
2020年を迎え、まもなくアメリカ側が実施した技術的な分析・評価から得られたより精度の高い情報をもとに、防衛省内で緻なシミュレーションが行われた。
 
その結果、ブースターを演習場内に落下させるためには、ソフトウェア上での修正だけでは難しいことが判明し、5月下旬には、ミサイルハードウェアを含むシステム全体の大幅な改修が必要になることが明らかになった。
 
日米共同開発の弾道弾迎撃ミサイル「SM-3ブロックⅡA」にはそれまでに約12年の歳月と2000億円余り(日本側の負担額は約1,100億円)の資金が費やされていた。
 
ハードウェアの改修のためには、18億ドルの追加費用と10年の期間を要する上、ミサイル自体の能力がこれ以上向上するわけでもない。
 
 
河野防衛大臣(当時)は6月3日、そして12日にも安倍首相と会談し、これ以上プロセスを進めてもコストに見合わず、配備計画は中止せざるを得ない旨を伝え、15日にイージス・アショア配備計画の停止を発表するに至った。
 
こうしてイージス・アショアの配備計画は立ち消えになったわけであるが、北朝鮮の核ミサイルの脅威は依然として目の前にある。
 
イージス・アショア配備の代替案が模索される中、選択肢として急浮上したのが「敵基地攻撃能力」保有であった。
 
(つづく)
 

核兵器禁止条約?こわいねこわいね…

本日10月26日の全国紙(朝日・毎日・日経・読売・産経)の朝刊では、5紙すべてが1面で(→ではなく産経は2面で、1面トップは東京新聞の方でした。すみません…)「核兵器禁止条約」が来年1月22日に発効されることを報じている。

 
核禁条約については、「北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか」シリーズのどこかで触れようとは思っていたが、せっかく今日のトップニュースになっているので一言だけ私見を述べておくと、もし世界から核兵器がなくなったら、それこそ世も末である。
 
なぜなら核兵器のない世界は「絶対戦争」を誘発しかねないからである(これについてはだいぶ補足が必要になるので、また別の記事にて詳しく書きたいと思う)。
 
核兵器がなくなればこの世界は平和に、すなわち戦争のない世界が訪れるのだろうか。
 
人類がいつから闘い、争い、奪い合い、殺し合っているのかを考えてみれば、核兵器のない世界は決してユートピアではないということは想像に難くないであろう。
 
核禁条約の目的が核のない世界の実現なのか、それとも平和な世界を実現することなのかは不勉強なのでよく知らないが、核兵器のない世界は平和な世界でないことはたしかである。
 
それをオブラートに包んだ表現が、↓の記事にある米国務省当局者の、核保有国が加わらない同条約を支持する各国は「戦略的誤りを犯している」云々であると言える。 
 
 
以上、どうせめざすなら核兵器のない世界よりも、平和な世界=戦争のない世界の方が良くない?という話でした。
 
※ちなみにタイトルの「こわいねこわいね…」は、娘(3歳)の最近の口ぐせである。
 

北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか①

今現在、日本の安全保障関連でホットな話題といえば、日本のミサイル防衛(MD)に関するものであろう。
 
より具体的には、「北朝鮮のミサイルの脅威から日本をどう守るか」という話である。
 
 
先月24日、政府は導入を断念した「イージス・アショア」の代替策として、その構成品であるレーダーやシステム、迎撃ミサイル発射装置の一式を洋上で運用する三つの案を自民党の関係部会に提示した。
 
その内容は、(1)弾道ミサイル迎撃に特化した専用艦を含む護衛艦型、(2)民間船舶活用型、(3)石油採掘のような海上リグ型、であると説明されている。
 
しかし、いずれの案も技術的な検証が不十分であり、人員・コスト等の面で課題も多く、また与党の意見集約が難しい上、アメリカ側は「合理的でない」と異論を唱えているなど、議論は難航すると見られている(※1)
 
 
 
今後は「洋上運用3案」の中から絞り込む方針となってはいるが、筆者としては、この3案が出される前に話題になっていた「敵基地攻撃能力」の保有に関する議論が深まることを期待していた。
 
「敵基地攻撃能力」に関する問題は、憲法9条に基づく戦後日本の安全保障政策の大原則とされてきた「専守防衛」に関わる重要な議論であるが、それゆえに安全保障の専門家以外からは避けられがちなテーマでもあるため、本ブログでは積極的に取り上げていきたい。
 
本題に入る前に、まずはイージス・アショアの導入が断念されるに至った経緯について、あらためて振り返りたいと思う。
 
 
今から約3年前、2017年12月に安倍内閣は「イージス・アショア」の導入を国家安全保障会議NSC)で承認、ならびに閣議決定した。
 
北朝鮮は1993年に日本海に向けて最初の「ノドン1」を発射して以来、着実にそのミサイル関連技術を向上させてきた。
 
特に近年、ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮の脅威が急速に増大しており、その脅威から日本をどのように守っていくのかについて具体的に検討する必要性が高まっていた。
 
そこで自民党安全保障調査会は2017年3月30日、イージス・アショアや最新鋭迎撃システム高高度防衛ミサイル(THAAD)導入の検討を急ぐべきである旨、政府に提言した。
 
THAADに関しては、稲田朋美防衛大臣(当時)が1月13日にグアムのアンダーセン空軍基地での視察を終えていたが、導入費が高くつき、かつイージス・アショアに比べて防護可能な範囲が限られるなどの理由から、5月15日の参院決算委員会でイージス・アショアの導入検討を本格化させることが明らかにされた。
 
そして8月17日に開かれた外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)において、日本政府はイージス・アショアの導入方針をアメリカ側に伝えた。
 
2プラス2から約2週間後の8月29日には、北朝鮮西岸の順安から北東に向け発射された新型の中距離弾道ミサイル「火星12」が北海道上空を通過し、襟裳岬から東に1180キロの太平洋上に落下する事案が発生した。
 
北朝鮮のミサイルが日本の上空を通過したのは通算5度目となり、これは発射方向を事前に予告しない「異例の」ミサイル発射実験でもあった。
  
北朝鮮は、2017年2月から11月の間に計16回に及ぶミサイル発射実験を行い、大陸間弾道ミサイルICBM)の打ち上げにも成功した。
また、「火星12」の発射実験から5日後には6度目の核実験を行っており、これについて国営の朝鮮中央テレビは「水爆実験に成功した」と報じている。
 
急速に核戦力を増進し、アメリカや同盟国である日本・韓国を攻撃すると脅しをかける北朝鮮金正恩委員長に対し、アメリカのトランプ大統領は国連演説の中で「アメリカと同盟国を守ることを迫られれば、北朝鮮を完全に破壊する以外の選択はない」と警告するなど、「チビのロケットマン」と「おいぼれた犬」の応酬は互いに核戦争の可能性を示唆するにまで至った。
 
 
いずれにせよ、核兵器を有する北朝鮮のミサイルにいかに対処するかという問題は、日本の平和と安全を守る上でも極めて重要であることに疑いはない。
 
日本のミサイル防衛は、まず海上自衛隊イージス艦から発射される弾道ミサイルが大気圏外(ミッドコース段階)で敵ミサイルを迎撃し、もしそれが外れた場合には、航空自衛隊ペトリオットミサイル(PAC-3)が大気圏に再突入した後(ターミナル段階)で迎撃するという、二段階の多層防衛を基本とする。
 
もちろん、極力遠く(大気圏外)で、すなわちイージス艦で迎撃できるに越したことはない。
そうであれば、イージス艦の数を増やすことでより精度の高い迎撃態勢を整えられそうではあるが、慢性的な人員不足に悩む海上自衛隊が新たに300名の乗組員を確保するというのは、他のオペレーションの遂行にも影響を及ぼしかねない以上、得策とは言えない。
 
そこで陸上配備型のイージス・アショアを導入することにより、「わが国を24時間・365日、切れ目なく守るための能力を抜本的に向上できる」(『平成30年版 防衛白書』)と目されたわけである(※2)
 
(※2)イージス・アショアの根幹をなすイージスシステムとは、メリカ海軍が開発した海上弾道ミサイル防衛システムである。開発当初の目的である艦隊防空はもちろん、高度な索敵能力、情報処理能力および対空射撃能力を備える画期的なシステムであり、その汎用性は極めて高く、防空戦闘以外にも海軍の様々な任務に対応可能であることから、イージスシステムは巡洋艦駆逐艦フリゲートの3つの艦種に搭載されている(イージスシステムを搭載したこれらの艦艇の総称が「イージス艦」であり、イージス艦という個別の艦種が存在するわけではない)。そしてイージス・アショアは、イージス弾道ミサイル防衛システムの陸上コンポーネントである。要は「陸のイージス艦(のBMD特化版)」と言えよう。< https://www.lockheedmartin.com/en-us/products/aegis-combat-system/aegis-ashore.html >
 
さて、気になるイージス・アショアのお値段であるが、これがまたべらぼうに高い。
 
当初見積り価格は、基体の取得価格のみで1基あたり約800億円、日本全土をカバーするには2基必要になるので、約1600億円程度とされていた。
 
しかし、蓋を開けてみれば1基あたり約1340億円(当初比7割増)、向こう30年間の維持・運用の経費を含めると2基で約4664億円にのぼるという。
 
さらにこの額には、イージス・アショア自体の防護対策費や弾薬庫等関連施設の整備費、そして1発30億~40億円と言われる「弾」(SM-3ブロックⅡA)数十発の取得費用などは含まれていない。
 
実際に運用する上で必要となる諸費用を全て合わせた総額は6000億円以上(「産経新聞」2018年7月23日)、あるいはFMS調達(※3)によりアメリカ政府が契約の主導権を握るため、「総額は見通せない」(「日経新聞」2018年7月30日)と報じられた。 
  
(※3)対外有償軍事援助(Foreign Military Sales: FMS)を利用した調達。FMSはアメリカ国防総省が実施している対外軍事援助プログラムで、経済的な利益を目的とした装備品の販売ではなく、アメリカの武器輸出管理法などの下、アメリカの安全保障政策の一環として装備品ならびに教育訓練等の役務を有償で提供するものである。輸出窓口は製造メーカー等の企業ではなく政府(アメリカ国防安全保障協力局)となり、それによって最新鋭・機密性高い装備品を輸入でき、かつ教育・訓練の提供を受けることができるなどのメリットがある。その一方で、価格は見積りであり、原則前払いで履行後に実質精算されるため、当初見積り額から高騰することもある上、納期が年単位で遅れることもザラで、また実施条件についてはアメリカ側に従う必要があるといったデメリットがあることも無視できない。
 
(つづく)
 

【解説・所感】NNNドキュメント「防衛大学校の闇」③

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NNNドキュメント「防衛大学校の闇」

【解説・所感】NNNドキュメント「防衛大学校の闇」①

【解説・所感】NNNドキュメント「防衛大学校の闇」②

 

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2学年に進級したNさんは、ゴールデンウィーク(GW) 中にある服務事故(服務規律違反)を起こす。

 

そしてこの服務事故をきっかけに、GWが明けると今度は4学年、それも中隊学生長から「指導」の名の下に暴行を受け、Nさんの居室の机・本棚、寝室のベッド・ロッカー・衣装ケースは3日連続で飛ばされた(※)

 

さらには上級生にとどまらず、複数の同期からも暴行を受けることとなる。

 

(※)動画6:33~を参照。

 

番組では1学年の中期に同部屋の3学年から暴行を受けた場面に続き、2学年GW明けに話が飛んでいる。

 

だが、防大生活で最も重要な時期は1学年後期(1月〜3月)から2学年のGW前までであるため、ここでは1学年中期にさかのぼって順に話を進めていきたい。

 

さて、実は1学年中期(8月〜12月)というのは、前期・後期と比べ日数が多いので長くは感じるものの、1学年にとってはさほどきつくはない。

 

前期を通じて防大生活全般に慣れるというのもあるが、それ以上に中期は大隊対抗の競技会等の行事が多く、特にそれらの行事に熱心な上級生が1学年に対して懐柔策に走るため、場合によっては前期は鬼のように1学年をシバきまくっていた上級生がまさに人が変ったようにフレンドリーキャラに豹変することもある。

 

中期に入るとまもなく大隊対抗の水泳競技会と学科の定期試験があり、それが終わると1学年は北富士演習場での秋季定期訓練に入る。

 

その後は開校祭の準備期間となり、棒倒しや演劇祭、観閲パレード訓練等々に追われ、この間、校友会によってはシーズン真っ只中である。

 

開校祭が終わると、3・4学年は冬季定期訓練があり、4学年は並行して卒研・卒論にかなりの時間を割かなければならない。

 

さらに人によっては、クリスマス・ダンスパーティーに参加したり、3学年は中長期にわたり各国の士官学校に派遣されたりもする。

 

そういった事情で、中期は学校全体がせわしく、またエンジョイモードに入るため、学生舎内の雰囲気も前期の殺伐としたものとはガラッと変わるのである。

 

もちろん、後期までそれが続くわけではない。 

 

冬休みを挟んで後期に入ると、またもや1学年は戦々恐々の日々を送ることとなる。

中期で緩んだ空気が一変、再び「防大1学年らしい」毎日となるのだ。

せっかくここまで耐え忍んだにも拘らず、後期の追い込みに心が折れ、退校してしまう1学年も少なくない。

 

後期の学生舎における下級生指導は3学年が主体となる。

3学年は4学年への進級時、全員がそのまま同じ中隊に残留する。

ゆえに3学年にとっての後期とはすなわち「4学年前期の予行演習」である。

 

特に後期には2学年が冬季定期訓練(スキー訓練)のため約1週間ほど不在となる期間があるが、この期間は多くの中隊で「ヘル・ウィーク(地獄週間)」に突入する。

 

それも1学年の誰かが服務事故を起こしたわけでもなく、「お前たちが2学年に上がって新しい中隊に行っても恥をかかないように」だとか「カッター期間に向けた準備」などというかなりお節介な理由でヘル・ウィークが催されるのである。

 

このヘル・ウィーク期間中は極めて理不尽かつ強烈なシバかれ方をする。

 はたから見ればまさに「凄惨ないじめ」であろう。

 

有無を言わさぬ上級生の猛攻にひたすら耐えるのみである。

 

ではなぜ耐えるのか。

 

逃げたら負けだからである。

 

たとえどんなにきつかろうが辛かろうが逃げ出さない。

一歩間違えれば死を選びかねない、そういった状況を乗り越えてきた経験のある人間と、辛い状況から逃げた人間では、その後の人生に雲泥の差が生じるのは自明である。

 

1学年最後の猛攻を耐え忍んだ暁であるかように、後期の終わりに陸海空の要員

(※)と学科の進学先が指導官から発表される。

 

(※)1学年は「共通要員」であり、2学年進級時に陸海空いずれかの要員に振り分けられる。

 

後期が終わると春休みに入るが、自分の場合、春休みは全日校友会の春合宿であった。

合宿先から直接学校に戻ると、晴れて2学年(仮)としての新たな防大生活が始まる。

 

そしてこの日から約1ヶ月もの間、人生最大の地獄を味わうことになるのである。

 

(つづく)