これらの報道やTwitterなどのSNSを見るだけでも、安倍元首相がいかに国際社会の中で影響力を持ち、世界的にインパクトを与えた卓越したリーダーであったかということがあらためて確認できる。
憲政史上最長となる3188日の在任期間もさることながら、外遊回数81回、のべ176カ国・地域を訪れる「地球儀を俯瞰する外交」を展開し、また日本版NSCを設立、「積極的平和主義」を掲げて国家安全保障戦略を策定し、平和安全法制を制定して限定的な集団的自衛権の行使を可能にするなど、戦後日本の一国平和主義的安全保障政策を、類稀なるリーダーシップによって大きく転換させた。
また、「自由で開かれたインド太平洋( Free and Open Indo-Pacific: FOIP)」は日本の外交戦略として2016年に当時の安倍首相が提唱したものであり、その後2018年のトランプ政権期には、米軍最古の統合軍であるアメリカ太平洋軍が「アメリカインド太平洋軍」に名称を変更し、2021年の日米共同宣言には「自由で開かれたインド太平洋を形作る日米同盟」と明記されるなど、安倍元首相提唱のインド太平洋という概念は、日本の外交・安全保障のみならず国際安全保障における戦略上のトレンドとして定着している。
今でもよく覚えているが、安倍元首相は、筆者の防衛大学校の卒業式における内閣総理大臣訓示のなかで、セオドア・ルーズベルトの名言を引用しつつ、「批評するだけの人間に価値はない。真に称賛されなければならないのは、泥と汗と血で顔を汚し、実際に現場に立つ者である。勇敢に努力するものであり、努力の結果としての過ちや、至らなさをも持ち合わせた者である」と述べ、自信と誇りを持って一心不乱に現場で全力を尽くすことの崇高さを強調していた。
統率教育において、その重要性を繰り返し説かれる「陣頭指揮」であるが、いかなる批判・批評にもめげることなく、先頭に立って自ら奮闘し、最後まで信念を貫こうとした安倍元首相は、まさにこの「陣頭指揮」を体現するリーダーであったように思われる。