ガザ衝突と「終わりなきパレスチナ問題」

2007年のガザ封鎖以来、 5回目となるハマスイスラエルの大規模な武力衝突が幕を開けてから、まもなく4ヶ月が過ぎようとしている。

 

2023年10月7日、 パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム武装勢力ハマスは、敵対するイスラエルに対し、かつてない規模の奇襲攻撃を仕掛けた。

 

ハマスはこの日、イスラエル領内に向けて数千発のロケット弾を打ち込むと同時に、1000人規模の地上戦闘員を動員して近隣のユダヤ人住宅を急襲した。

 

世界に「パールハーバー」 的衝撃を与えたこの攻撃によるイスラエル側の死者は1200人を数え、約240人の住民がガザに拉致され、人質となった。

 

なお、イスラエルの人口は日本の1/10に満たない約900万人であり、1948年の建国から今日に至るまで、 イスラエルが最も犠牲者を出したのは独立戦争である第一次中東戦争であったが、この時の死者数は9ヶ月間で約6000人である。

 

そのイスラエルにおいて、たった一日の攻撃でこれほどの損害が出たことを考えれば、イスラエル社会が今回のハマスの奇襲にどれほどの衝撃を受けたのかは想像に難くない。


イスラエル軍ハマスが越境して侵入した際の非人道的な「 残虐行為」の映像を公開しており、またSNSでは多数の動画が出回っているが、子どもの目の前で平然と父親を殺害する戦闘員の姿や、銃殺した住民の遺体に何度も銃弾を打ち込む戦闘員の嬉々とした様子、あるいは乳幼児の複数の焼死体が道中に遺棄されていたりと、そこには惨憺たる武力紛争の「現実」が映し出されている。


ハマスによる衝撃的な奇襲、そして「蛮行」の数々はイスラエル国民の計り知れない憎悪を煽り、イスラエルは過去に例がないほどの大規模かつ圧倒的な総攻撃に打って出た。


イスラエル軍ガザ地区内で空爆や地上部隊による攻撃を続け、今日までにガザの死者数は2万7000人にのぼり、建物の半数以上が破壊され、人口222万人のうち170万人以上が域内避難民(IDP: Internally Displaced Persons)となっており、電気も水道も食料もない人道危機が発生している。
また、医療機関も多数破壊されており、社会的インフラは甚大な被害を受けている。

 

イスラエル軍は「ハマスの壊滅」を掲げてガザへの侵攻を続けているが、「一般市民の被害をできるだけ避ける」と明言はしつつも、イスラエルの攻撃によるガザ地区での死者の7割以上は女性と子どもである。


無論、非戦闘員や民用物に対する攻撃、過度の傷害・ 無用の苦痛を与える手段や方法を用いること、 軍事目標への攻撃によってもたらされる軍事的利益と巻き添え被害との不均衡などは、いずれも戦争法(武力紛争法・国際人道法) に反するものであるが(※)、これに関しては見境なく「 憎悪の応酬」が繰り広げられている状況にあると言えよう。


(※)ジュネーブ第一追加議定書第35条、第51条4項、 第51条5項(a)、第57条2項(a)(ⅲ)参照。

 

昨年11月24日に始まった戦闘休止はわずか7日間で終了し、12月1日には戦闘が再開されている。


そして現在、カタールやエジプトの仲介によって、ガザ地区での新たな停戦と人質の解放に向けた間接協議が進められている。


両者ともに妥協点を探りつつも、イスラエルハマスの憎悪と暴力の連鎖は止まることなく、 犠牲者は日増しに増えていく一方である。

 

そしてたとえ停戦が実現したとして、あるいはイスラエル軍ハマスを壊滅できたとして、その後、この地域はいったい誰が、どのようにして統治するのだろうか。
憎悪に燃えるパレスチナ人に対し、イスラエルはどのように向き合うのであろうか。

 

国際社会がパレスチナ問題を放置し続けてきた「ツケ」 はあまりにも大きい。


いまだ出口の見えないガザ衝突であるが、「終わりなきパレスチナ問題」の解決の糸口を見出すためには、たとえそれがアポリアであるように思われようとも、国際社会がこの問題と正面切って向き合わなければならないことは自明である。