北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか④

 
敵国(具体的には北朝鮮が日本に向けて核ミサイルを発射するような事態が生じた場合に、敵のミサイル発射基地をこちらから攻撃・破壊するための「敵基地攻撃能力」を持つことによって、わが国を守ることはできるのだろうか。
 
結論から言うと、敵基地攻撃能力を持ったとしても、北朝鮮の核ミサイルの脅威から日本を完全に守れるわけではない。
 
 
まず第一に、敵基地を攻撃すると言っても、肝心のミサイル基地がどこにあるのかがわからない。
 
「いやいや、日米同盟があるんだからアメリカに聞けばいいだろと思われるかもしれないが、アメリカも北朝鮮のミサイル基地がどこにあるのかを把握できていない。
 
アメリカですら完全に掴めていない目標情報を日本独自で収集するには、いったいどれだけの早期警戒衛星(偵察衛星を新たに配備する必要があるのだろうか。
 
偵察衛星だけでは限界があるので、そうなると人的情報(ヒューミント)、つまり諜報(スパイによる情報収集が鍵を握るが、北朝鮮工作員」ならぬ「北朝鮮への工作員」を送り込み、すべてのミサイル基地の場所を特定することができるのであれば、それこそ日本よりも先にアメリカがやっているはずである。
 
また、北朝鮮の核ミサイルは「輸送起立発射機」ないし「発射台付き車両」(Transporter Erector Launcher: TEL)と呼ばれる移動式の車両から発射される。
 
このTELの中には、単に山岳地帯を移動するだけでなく地下施設を移動し、ミサイルを発射するまで外からは確認しようのないタイプのものもあるため、事前に発射位置を特定することは極めて難しい
 
ひとたびミサイルが発射されれば、その位置を特定すること自体は容易ではあるが、TELはミサイル発射後、すぐに移動してしまう。
 
「トマホーク(巡航ミサイル)ならどうか」という意見もあるが、たしかに巡航ミサイルは命中精度については申し分ないものの、最新発展型「タクティカル・トマホーク」でさえ、その巡航速度は880km/h程度であり、移動発射型の核ミサイルの脅威を阻止するという目的を考えると、速度が遅すぎて使えない。
 
 
では動かない(固定された)ミサイル基地の方はどうかというと、一般的に地下施設の場合はかなり頑丈に造られるため、これを通常弾頭で破壊するのは至難の業である。
 
となれば、映画『シン・ゴジラ』でB-2(ステルス戦略爆撃機)から投下され、6発のうち2発ゴジラにダメージを与えることに成功した「MOP2」のような大型貫通爆弾(※1)を用いるか、もしくは原爆を使って破壊するしかないが、特に後者については、日本が敵基地攻撃能力を有効化するために原爆を保有することなど、多くの日本国民は納得しないであろう。
 
(※1)大型貫通爆弾(Massive Ordnance Penetrator: MOP)は強固な地下要塞・地下弾道ミサイル・地下指令所の精密破壊用に開発されたバンカーバスター(硬化目標や地下の目標を破壊するために用いられる航空機搭載爆弾のこと)で、アメリカ空軍の戦略爆撃機B-2とB-52Hに搭載され、実践配備されている。誘導にはGPSを使用するため、精密誘導が可能な「スマート爆弾」である。
 
さらに、もし日本が敵基地攻撃を仕掛けるのであれば、相手の反撃(第二撃)を受けることがないよう、北朝鮮保有するノドン」や「スカッドER」といった日本を射程に収める弾道ミサイル数百基を全て破壊する必要がある。
 
北朝鮮による報復攻撃は、まず間違いなく核弾頭が搭載されることが予想され、そのうち一発でも迎撃に失敗するようなことがあれば日本は「火の海」となり、数十万から数百万人規模の国民が犠牲になる。
 
それは日本にとって「耐え難い損害」であり、何より75年前の惨劇が繰り返されるようなことはあってはならない。
 
日本のいかなる安全保障政策も、「戦争をしない・させない国」であり続けることに収斂されるべきである。
 
そうであるなら、やはり敵ミサイルを全て殲滅する以外にない。
 
そして数百基の敵ミサイルを殲滅するための手段として、空爆を用いるにせよトマホークを用いるにせよ、あるいはスタンド・オフ・ミサイル(長射程巡航ミサイル)を用いるにせよ、相応の弾量を整備するための予算はどうするのかといった問題も、当然避けては通れない。
 
このように軍事技術の観点だけから見ても、敵基地攻撃能力の保有を実現する上での課題は山積みなのである。
 
また、冒頭で書いたように、たとえ敵基地攻撃能力を保有したとしても、北朝鮮の核ミサイルの脅威を無力化し、確実に日本の安全を守れるというわけではない。
 
しかしそれでも、日本は敵基地攻撃能力を持つべきであり、そのための議論を続けていくべきなのである。
 
(つづく)