自分基準

先日開かれたイチロー選手の引退記者会見のなかで、「子供の頃からの夢であるプロ野球選手になるという夢を叶えて、今、何を得たと思いますか」という質問に対して、イチロー選手が以下のように答えていたことが印象深い。

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成功かどうかってよくわからないですよね。じゃあどこから成功で、そうじゃないのかって、まったく僕には判断できない。だから成功という言葉は嫌いなんですけど。

 メジャーリーグに挑戦するということは、大変な勇気だと思うんですけど、でも成功、ここではあえて成功と表現しますけど、成功すると思うからやってみたい。それができないと思うから行かないという判断基準では、後悔をうむだろうなと思います。できると思うから挑戦するのではなくて、やりたいと思えば挑戦すればいい。その時にどんな結果が出ようとも後悔はないと思うんですよね。

 じゃあ、自分なりの成功を勝ち取ったところで達成感があるのかというと、それは僕には疑問なので。基本的には、やりたいと思ったことをやっていきたいですよね。

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やりたいことをやる。

できるできないではなく、やりたいかどうかを判断基準に据える。

ものすごくシンプルであるが、ここを外しさえしなければ「自分の人生」を生きることが可能になる。

上手くいくかどうか、成功するかどうかを基準にしていてはいつまでも「他人の人生」から抜けられない。

三者の評価、社会的評価などではなく、 自分がどれだけ納得できるかどうか。

基準はいつも自分の中にあるのだ。

お金の話⑤――防衛費の引き上げ?

日本を含む同盟国に対して「応分の負担」を求め続けるトランプ政権であるが、ビジネスマン出身のトランプ大統領は国防費の対GDP比、つまり「数字」に強いこだわりを見せている。

 

本来、国防費は結果にすぎない。あくまで国家の安全保障戦略ないし軍事戦略に基づく人・物品両面における各種防衛力整備に必要となる費用を年度毎に算出したものが国防費であり、数字を先に決めてしまうのでは本末転倒である。

 

しかし、対米関係が極めて重要な政策課題に位置づけられる日本にとって、NATO基準の対GDP比2%どころか1%にも満たない防衛費の見直しは避けられない。トランプ政権のアメリカを納得させるためには、数字で示すよりほかないのだ。

 

とはいえ、既に毎年漸増している防衛費を一気に増額するというのは現実的ではない。トランプ大統領の意向を忖度して取り計らうために防衛費を増やすというのでは、国民の理解を得ることは到底難しいだろう。

 

そこで日本政府は、NATO加盟国の国防費の算出方法にならい、旧日本軍の軍人などに支給される恩給費や国連平和維持活動(PKO)の分担金など関連費を盛り込むことで、対外的な見掛け上の防衛費を増額し、対GDP比1.3%程度まで引き上げるという方針を立てたのである。

  

(つづく)

父と娘の読書タイム

もうすぐ1歳半を迎えるわが娘は、父親に負けず劣らず本好きのようで、床におすわりした状態で絵本のページをパラパラと、それも超高速でめくっている姿をよく見かけます。

 

読み聞かせのときは基本おとなしく本を眺めているのですが、時より「あっ」と可愛らしい笑い声を上げてくれたり、両手をパチパチと叩いて満面の笑みを見せてくれたりするので、お父さんはいつもメロメロです。

 

そんな時、おそらく彼女は心の中で「男って単純ね、ちょろいわ♪」などと思っていることでしょう。どうやら女性という生き物にとって男を手玉にとることなど朝飯前、いや朝乳前のようです(※)

 

(※)うちの娘はいわゆる完全母乳育ちで、1歳半にして未だにおっぱい大好きという重度の「パイパイジャンキー」なのです。

 

そんなパイパイジャンキーな娘は、読書といっても基本的にはページをめくる他、カバーを外す、叩く、破く、しゃぶる、噛むなど、「本は読むもの」という常識にとらわれることのないクリエイティブな破壊行動にいそしんでいるため、蔵書の数は膨れ上がるばかりです。

 

しかしそれでもやはり、自分としては子どもの本に関しては惜しむことなく買い与えていきたいと考えています。

 

本を読むかどうかは結局習慣によるところが大きいので、今のうちから「本に囲まれているのが当たり前」な環境を作り出し、もう少し大きくなった後、多感な時期にできるだけ多くの本を読んでもらいたいという父親のエゴを全開にしております。

 

そんなこんなで、父と娘の読書タイムは今日もつづくのであります。

  

☆娘のお気に入り絵本TOP5

 

おんなのこずかん―0さい~5さい

お金の話④――対GDP比の引き上げ

これまで概ねGDP1%の枠内で推移してきた日本の防衛費であるが、昨今、政府はその対GDP比の引き上げを検討している。

引き上げが検討されている理由は、GDP1%の防衛費が「少なすぎる」と考えられているからに他ならない。

では、一体どこの誰が日本の防衛費は少なすぎると考えているのだろうか。

 

お察しの通り、ドナルド・トランプ米大統領である。

 

トランプ大統領はこれまで、日本および韓国、そして北大西洋条約機構NATO)加盟国に対して「応分の負担」、とりわけ米軍駐留経費の負担増を幾度となく要求してきた。

特にNATOに対しては大統領就任以前から「時代遅れ」であるとの持論を展開しており、ことある毎に「公平な割合での貢献」を主張している。

 

冷戦期より「世界の警察官」の役割を担ってきたアメリカであるが、今日においてもNATOの防衛支出全体の約7割を一国で占めている事実が示す通り、ヨーロッパの集団安全保障はアメリカに大きく依存している。

 

しかしその一方で、アメリカ以外のNATO加盟国の多くが対米貿易黒字を実現しながらも、NATO基準となっている国防費の対GDP比2%を満たしていない。加盟国28カ国のうち、対GDP比で2%以上の国防費を支出しているのはアメリカ、イギリス、ギリシャポーランドエストニアの5ヵ国だけである。トランプ大統領が「応分の負担」を求める姿勢を頑なに崩さないのも無理はない。

 

生粋のビジネスマンであるトランプ大統領にとって 、これまでのような同盟国とのアンフェアな関係性をリバランスしていくことの優先度は高い。

そしてその矛先が、アメリカの同盟国の中で最も経済力の高い国の一つである日本に向けられても何らおかしくはないのである。

 

(つづく)

防衛大のいじめ問題――「下級生いじめがまん延」はない

www.tokyo-np.co.jp

 

まずはじめに、違法な暴行はいかなる組織の内規や「伝統」が存在しようと違法に他ならず、幹部自衛官となるべき者を教育訓練する防衛大学校においては決してあってはならないことである。

また、一般的に「いじめ」と表現されるような低俗で卑劣な行為を下級生指導と混同する、もしくは恣意的に同一視するというのは、自分が置かれている士官候補生という立場がいかなるものであるかを理解していなかったことに起因するものであろうと察するが、一卒業生としては残念極まりない。

 

ただ、記事の見出しにある「下級生いじめがまん延」というのは事実と異なるように思われる。なぜなら、そのような下級生への「いじめ」を楽しんでいる余裕など、ほとんどの防大生にはないからである。

 

なお、記事にある「粗相ポイント」に関しては自分は一切縁がなかったが、これを「陰湿ないじめ」と捉えるのであれば、一般大学の運動部やサークルの多くで「陰湿ないじめ」が横行していることになるのではないだろうか。実際、学生に限らず社会人でも先輩・上司のこの手の悪ノリ、悪ふざけなどは、特に体育会系が多いとされる業界ではよくある話であろう。

 

さて、防大生活というのは非常に特殊なものであり、決して「給料をもらいながら学費を払わず楽しい大学生活が送れて、身分は特別職国家公務員で将来は幹部自衛官だなんて最高!」などという生易しいものではない。

 

事実、自分の期では4月1日に着校し、4月5日の入校式を経て正式に防大生になるまでの5日間で100人以上が入校を辞退した。その後も事あるごとに同期が去って行き、600名以上着校した中で卒業できたのは400余名である。あの学校で4年間を過ごすにはそれなりの「覚悟」が必要なのだ。

 

各学年2人ずつ、8人部屋の全寮制であるため、24時間常に誰かと行動を共にしなければならず、分単位、時には秒単位で時間に追われるストレスフルな学生舎生活に加え、週7日間の校友会活動(部活)で身体を鍛え、平日は外出することすら許されず、土日も門限が定められており制約も多い。さらに一般の大学生のように授業を一度でもサボろうものなら服務事故となり留年確定、春夏冬の定期訓練後の長期休暇も校友会の合宿が詰め込まれ、自由な時間はほとんどない。当然、入校時の宣誓において「全力を尽くして学業に励むことを誓」っている以上、学業を疎かにすることはできない。そのような生活を4年間、毎日続けるのである。

 

防大生は厳格な服務規律・規則に拘束される集団生活を核とし、知・徳・体を総合的に鍛え上げる教育訓練を通じて、指揮官に不可欠とされる素養を涵養し、日々その向上に努めている。それはすなわち、「エリートたる者、その能力を社会に還元していく責任がある」というノブレス・オブリージュの精神であり、良識ある人格に裏打ちされたリーダーシップを身につけるための基盤であり、不愉快、困難、危険、嘲弄、退屈、迷いや瞬間的な衝動行為に対する抵抗力等である。そして、任務を完遂するためには指揮下部隊の団結・規律・士気・錬度、換言すれば「チームワーク」がいかに重要であるかを理解するために、中隊単位での密接な人間関係を基本とする学生舎、校友会、訓練を通じてリーダーシップ・フォロワーシップ・メンバーシップ・スチュワードシップを学んでいるのである。

 

また、特に入校から2学年4月末に実施されるカッター訓練終了までの1年1ヶ月は、肉体的精神的苦痛を伴う機会が非常に多いが、ここでの「耐え難きに耐える」という経験はかけがえのない一生の財産になる。防大生活が本当の意味できついのは、肉体的にも精神的にも極限まで追い込まれるこの期間である。

 

自分は防大を卒業後、幹部候補生学校にて自衛隊を退職したいわゆる早期退職組であるため、部隊経験がなく、実際のところ部隊と比べて防大生活がどれ程きついのかはわからないが、「精鋭無比」の標語で名高い陸上自衛隊・第1空挺団の空挺レンジャー課程を修了した兄いわく、「レンジャーより防大1学年の方がきつい」とのことである。

 

以上に述べてきたように、防大生の大半は厳しく耐え難い防大生活を真面目に送りながら自己研鑽に励んでいる。学業・校友会・学生舎生活の三本柱に加え訓練まで課された多忙な日々の中で、何に注力するかは人によって異なるが、自分の場合はカッター訓練終了後から卒業までの間に3000冊ほどの本を読んだ。それが今の自分の礎となっている。

 

防大の同期、諸先輩方には心の底から尊敬できる人々が少なからずいる。それがごく一部の人間の悪行のせいで現役の防大生、防大OB、そして防衛大学校が世間から白い目で見られるというのは我慢ならないものである。

お金の話③-2――GDP1%枠

憲法9条2項では「戦力」の不保持が明記されている。それは「前項の目的を達するため」、すなわち日本は自衛権を否定しているわけではないという第1項全体の趣旨を前提とするものであるが、ここで保持が禁止される「戦力」とは、「自衛のための必要最小限度を超える実力」を意味するものと考えられる。

 

しかし、この「自衛のための必要最小限度」がどの程度であるのかは科学技術の現況やその時々の国際情勢、安全保障環境などに依存するものであり、厳密に数量化できるわけではない。日本の実力が必要最小限度にとどまっているかどうかは、主に国会での予算審議を通じて判断されることとなる。

 

そこで1976年、当時の三木内閣は、防衛予算がその年度の国民総生産(GNP: Gross National Product)(※1) の1%に相当する額を超えないことを閣議決定し「自衛のための必要最小限度」の具体的な基準を設けた。この閣議決定は1987年の中曽根内閣時に撤廃され、代わりに中期防(中期防衛力整備計画)(※2) で決定された防衛費総額の範囲内で防衛費を決定する方針に変更された(※3) 

 

(※1)一国の国民が生産した付加価値の合計。GDPに外国からの純所得(受取り所得-支払い所得)を加えたもの。人の国際化が進む近年では、国民よりも領土に着目して計算されるGDPが用いられることが多い。

(※2) http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/2019/pdf/chuki_seibi31-35.pdf

(※3) 2018年12月18日に閣議決定された新中期防で定められた2019~23年度の防衛費総額は、現行の中期防(2014~18年度)より2兆8000億円多い過去最大の27兆4700億円にのぼる。 

 

この年、1987年度の防衛予算はGNPの1.004%に相当する額となり、初めて1%を超えることとなる。その後、1%枠の基準としてGDPが用いられるようになり、防衛費は現在に至るまで概ねGDP1%の枠内で推移している。

 

なお、2018年11月26日に開かれた記者会見において菅官房長官は、日本の防衛費が「GDPの1%程度で推移してきたのは事実だが、現在は1%枠というものがあるわけではないと考えている」との見解を示している(※4) 

 

(※4) 防衛費「GDPの1%枠というものがあるわけではないと考えている」菅官房長官 | 注目の発言集 | NHK政治マガジン

 

(つづく)

お金の話③――もっと比べてみる

前回の記事では、日本の防衛費を(1)国家予算、(2)社会保障費 と簡単に比較してみたので今回は対GDP比を見ていきたい。

 

(3)GDPと比べる

一国の経済規模を示す指標として用いられる国内総生産GDP: Gross Domestic Product)。GDPとは1年間に新たに生産された財とサービス、すなわち付加価値の合計であり、最終生産物を市場価格で合計して、そこから中間生産物の価格を差し引くことで計算される。

ここでは国際通貨基金IMF)が算出した2019年の日本の名目GDP予想値を用いたい(※)

 

(※)World Economic Outlook Database October 2018

  

IMFによる2019年の日本の名目GDP予想値は5兆2200億ドルであり、これを1ドル=110円で日本円に換算すると574兆2000億円になる。2019年の防衛費は5兆2574億円なので、

5兆2574億÷574兆2000億≒0.0091

日本の防衛費は対GDP比で1%にも満たないのである。

 

(つづく)