お金の話③-2――GDP1%枠

憲法9条2項では「戦力」の不保持が明記されている。それは「前項の目的を達するため」、すなわち日本は自衛権を否定しているわけではないという第1項全体の趣旨を前提とするものであるが、ここで保持が禁止される「戦力」とは、「自衛のための必要最小限度を超える実力」を意味するものと考えられる。

 

しかし、この「自衛のための必要最小限度」がどの程度であるのかは科学技術の現況やその時々の国際情勢、安全保障環境などに依存するものであり、厳密に数量化できるわけではない。日本の実力が必要最小限度にとどまっているかどうかは、主に国会での予算審議を通じて判断されることとなる。

 

そこで1976年、当時の三木内閣は、防衛予算がその年度の国民総生産(GNP: Gross National Product)(※1) の1%に相当する額を超えないことを閣議決定し「自衛のための必要最小限度」の具体的な基準を設けた。この閣議決定は1987年の中曽根内閣時に撤廃され、代わりに中期防(中期防衛力整備計画)(※2) で決定された防衛費総額の範囲内で防衛費を決定する方針に変更された(※3) 

 

(※1)一国の国民が生産した付加価値の合計。GDPに外国からの純所得(受取り所得-支払い所得)を加えたもの。人の国際化が進む近年では、国民よりも領土に着目して計算されるGDPが用いられることが多い。

(※2) http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/2019/pdf/chuki_seibi31-35.pdf

(※3) 2018年12月18日に閣議決定された新中期防で定められた2019~23年度の防衛費総額は、現行の中期防(2014~18年度)より2兆8000億円多い過去最大の27兆4700億円にのぼる。 

 

この年、1987年度の防衛予算はGNPの1.004%に相当する額となり、初めて1%を超えることとなる。その後、1%枠の基準としてGDPが用いられるようになり、防衛費は現在に至るまで概ねGDP1%の枠内で推移している。

 

なお、2018年11月26日に開かれた記者会見において菅官房長官は、日本の防衛費が「GDPの1%程度で推移してきたのは事実だが、現在は1%枠というものがあるわけではないと考えている」との見解を示している(※4) 

 

(※4) 防衛費「GDPの1%枠というものがあるわけではないと考えている」菅官房長官 | 注目の発言集 | NHK政治マガジン

 

(つづく)