お金の話②――比べてみる

日本の防衛費5兆2574億円は多いのか少ないのかを考えてみよう、と言われたところで、そもそもどうやって考えれば良いのだろうか。もちろんそんな大金を持った経験などないし、ちょっと想像もつかないというのが正直なところである。

 

ちなみに米フォーブス誌によれば、2019年3月現在で5兆円(450億ドル)以上の資産を有する億万長者は世界に15人しかいない(※)

 

(※)Billionaires 2019

 

15人しかいないというより、むしろ防衛省自衛隊を丸っとお買い上げできる人間が世界には15人もいるのである。GDP世界第3位の経済大国である日本の防衛費は「その程度」であるという見方もできる。

 

それはさておき、5.2兆円の防衛費を考えていく上で重要になるのが「比較の視点」である。よくわからない時は比べてみることにつきる。ではさっそく比べてみよう。

 

(1)全体(国家予算)と比べる

まずは全体との比較から。2019年度の日本の一般会計総額は101兆4564億円。前年度比3.8%増、7年連続で過去最大を更新し、初の100兆円の大台を突破することとなった。

ここではあまり細かいことは気にせず、ざっくり計算しよう。

5兆2574億÷101兆4564億≒0.0518

防衛費は全体の約5.18%となる。

 

(2)社会保障費と比べる

 次にsecurity仲間である社会保障費と比較してみよう。2019年度の社会保障費は34兆587億円。高齢化に伴う医療・介護費の増大や幼児教育無償化などの拡充策を要因に前年度から1兆704億円の増額となっている。

なお、こちらもざっくりと比べてみる。

5兆2574億÷34兆587億≒0.154

どうやら日本にとっての懸念材料は中国でも韓国でも北朝鮮でもなく、高齢化であるらしい。

 

(つづく)

 

 

お金の話――日本の防衛費は多い?少ない?

5兆2574億円。

昨年12月21日に閣議決定された日本の防衛費の2019年度予算額である(※)

なお、前年度比で見ると約1.3%増えており、2013年度以降7年連続の増額で過去最高額を更新することとなった。

 

(※)SACO関係経費、米軍再編関係経費のうち地元負担軽減分、新たな政府専用機導入に伴う経費及び防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策に係る経費を含んだもの。 

 

これを多いと思うか少ないと思うかを問えば、その人の安全保障観、あるいは日米同盟に対する認識などが露呈する。そこでまずは、日本の防衛費5.2兆円は多いと感じるか少ないと感じるか、もしくは妥当な額と言えるのか、理由も含めて皆さんにもぜひ考えて頂きたい。

北朝鮮のねらい

9月3日、北朝鮮が6回目となる核実験を行い、世界を震撼させている。

「わが国を取り巻く安全保障環境は、より一層厳しさを増している」という常套句が、今日では極めてリアルに感じられる。

 

防衛省の発表で当初70キロトンであったとされていた爆発規模は、5日には120キロトン、そして翌6日には160キロトンに修正された。ちょうど一年前の2016年9月9日、北朝鮮建国記念日に行われた5回目の核実験の爆発規模は11~12キロトンであったことを踏まえれば、わずか一年という短い期間に、10倍以上の威力の核開発を成功させたことになる。なお、広島に投下された原爆・リトルボーイ(Little Boy)は15キロトンであった。

 

今回の核実験について、朝鮮中央テレビ他、各種メディアの報道によれば、北朝鮮は水爆実験に成功したとされており、実際に公開された弾頭も水爆の形状をとっている。ただし、日本側の現時点での見解としては「水爆であった可能性は低い」(小野寺防衛大臣)というものである。

 

北朝鮮は2016年1月に実施した4回目の核実験の際、それが「水爆」実験であったことを公表していたが、この時それが本当に水爆であるという見解を示した専門家はほとんどいなかった。仮にそれが水爆であったとしても、約1年8か月で水爆による弾頭実験を成功するに至ったということは、異例のスピードで北朝鮮が核開発を進めている証左といえる。

 

核実験を強行した北朝鮮に対し、国連安保理で新たな制裁決議をめざすアメリカは、北朝鮮への石油や天然ガスの全面禁輸措置をはじめ、金正恩朝鮮労働党委員長の資産凍結等を内容に盛り込んだ安保理決議草案を各国に提示した。しかし、中国とロシアは対北全面禁輸制裁には否定的であり、アメリカがこのまま11日の採決に拘れば、特に中国の拒否権発動は免れないように思われる。

 

では、核開発を推し進め、ミサイル発射・核実験を繰り返す北朝鮮に対し、なぜ中国は追加制裁を加えようとするアメリカとそれに追随する国際社会に否定的な反応を示すのであろうか。

 

第一に、中国は21世紀の現代においても、未だに「戦国時代モデル」を地で行く国である。中国の死活的国益共産党一党支配体制の維持であり、その行動原則はどこまでも「国益第一」なのである。

 

これを踏まえ、「中北関係の4パターン」を比較検討すれば、中国が北朝鮮に対する石油の全面禁輸を頑なに拒否する理由が見えてくる。

 

A. 統一朝鮮×親中

B. 統一朝鮮×反中

C. 分断国家×親中

D. 分断国家×反中

 

この中で中国にとって最悪なパターンは、朝鮮半島が統一され、かつ既存の米韓同盟を基軸とする新米国家として反中路線を選択した統一朝鮮の「B」である。朝鮮半島が今よりもやっかいな状態、つまり軍事的に強大となり、さらには間接的にアメリカと国境を接することになるというのは、中国にとってまさに「悪夢のシナリオ」以外の何物でもない。

 

中国の立場からすると、朝鮮半島は分断された現状が「良い」状態なのである。ゆえに、中国の朝鮮半島政策は「北朝鮮を支援して分断状態を維持」することが基本となる。

 

そして中国は、北朝鮮の核実験を非難する一方で、北朝鮮への過度な制裁、今回のような石油の全面禁輸などには反対する。なぜなら北朝鮮が潰れてしまっては困るからである。中国が北朝鮮の行動を非難するのは、国際社会と同調する姿勢を見せることで制裁決議決定過程に加わり、北朝鮮への過度な制裁を実行させないようにするために他ならない。

 

さて、ここからが本題であるが、北朝鮮はなぜ国際社会と対立することが必至である核・ミサイル開発に、これほどまでに執着するのか。あるいは、今回の核(水爆)実験の目的は何か、という点である。

 

日本のメディアでは、北朝鮮の行動はアメリカに対する「挑発」が目的であるとか、核・弾道ミサイル開発とその実験を繰り返す金正恩は未熟な指導者であるがゆえに「暴走」しているなどと報道されることが少なくない。たしかにそのような面も否定はできないし、実際、何らかの記念日に合わせてパフォーマンス的に実験を行っている印象も強い。だがそれ以上に念頭におくべきは、北朝鮮は中国に勝るとも劣らない「超リアリスト」国家であるということだ。

 

北朝鮮は政治・軍事・経済などあらゆる分野における「社会主義的強国」の建設を掲げ、軍事を最優先させる「先軍政治」を採用している。そしてその理念通り、国民が飢餓に苦しもうが軍人の食糧でさえ確保できなかろうが、核・ミサイル開発を最優先に国政を進めているのである。金正恩いわく、北朝鮮は「先軍革命路線を恒久的な戦略的路線として堅持し、軍事強国の威力を各方面から強化」していくという。

 

そしてその根底には「体制維持」という死活的国益が見出せる以上、北朝鮮核兵器開発の目的は、あくまで体制を維持する上で欠かせない抑止力としての核攻撃能力を保有することにある。通常兵力ではどう足掻いてもアメリカには及ばない、現状として核戦力でもP5(Permanent 5=核保有5大国=国連安保理常任理事国)に敵わない。

 

そのような状況で生き残るためには、国際社会、とりわけアメリカの脅威となる核兵器の開発を最優先に進めるのが合理的である。また、核を開発したのであれば、それを飛ばすミサイルの開発も必要になる。そして核・ミサイル開発には段階的に乗り越えなければならないいくつかの技術的な関門があり、それを一つ一つ着実にこなしていくことで実践配備が可能となる。

 

ひとたび核兵器ICBMが完成し、実践配備されてしまえば、アメリカも簡単に手出しはできなくなる。アメリカは核による反撃を何よりも恐れるからである。そしてそこに核抑止が成立する。

 

アメリカの同盟国であるお隣りの韓国、そして日本に核はない。さらに米海軍では2013年に核攻撃型のトマホーク巡航ミサイルが退役、第7艦隊は空母も水上艦も核兵器能力を落としている。ゆえに核兵器を実戦配備することによって「恐怖の均衡」をつくり出し、恒久的な体制維持を図ること。それこそが北朝鮮のねらいであると見ることができる。

テロ②

テロ

 

○誰がテロを起こすのか

テロの行為主体としては、第一に個人、革命組織や宗教集団、民族団体などの非国家主体が挙げられる。「テロ」と聞いて多くの人が想起するイメージは、これらの非国家主体が国家(政府)に対して行使する反政府テロ・反体制テロではないかと思うが(※)、これらのテロは革命闘争、民族運動、宗教対立などの紛争とも密接に関わるものである。

 

(※)政治的企図の下に無差別テロの形態がとられれば、実際に物理的な被害を受けるのは一般市民である。

 

無論、非国家主体が別の非国家主体を対象にテロ行為を仕掛ける場合もあるが、そのようなテロの背景には価値観やイデオロギー、宗派などの対立がはっきりと見てとれることが多い。

 

一方、国家が非国家主体、あるいは国家主体に対して行使するタイプのテロは、国家テロと呼ばれる。

 

国家が非国家主体に対して行使する国家テロは、たとえばシリアのアサド政権が、反体制派に対し2013年8月に行ったとされる化学兵器による大量殺戮に見られるような、独裁政権による恐怖政治の手段として用いられることが多い。

 

また、国家が別の国家を対象とするテロのうち、戦時に行使されるものを戦術テロ、平時もしくは停戦・休戦時に行使されるものを戦略テロと区別することもある。戦術テロは主に戦闘において敵を攪乱するために用いられ、戦略テロは戦争の代替、もしくは強制外交の一手段として用いられる。

 

国家テロ、特に戦略テロは国家戦略の一種であると見なすことができるが、だからこそ、それが国際社会に明るみになってしまえば、政府に対する国際社会からの反発や信用の失墜は避けられない。つまり戦略テロに伴う政治的リスクは極めて深刻であると言える。

 

そのような政治的リスクを回避するために、テロの実行者と黒幕である政府との関係はどこまでも厳重に秘匿されなければならない。ゆえに戦略テロは、たとえば対立国の反政府組織に資金援助や武器供与を行ってテロを支援する国家支援テロや、テロリストやテロ組織を雇ってビジネスライクに利用する国家指揮テロなどの形態がとられることとなる。

 

(つづく)

テロ

諸事情によりだいぶご無沙汰の更新になってしまい申し訳ないのですが、今回は国際社会でもホットな話題のテロについて。

 

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まず、テロリズム(Terrorism)の語源は、フランス革命期の国民公会ジャコバン・クラブ最左派であった山岳派が展開した恐怖政治(レジーム・ド・ラ・テロール)に由来する。

 

フランス革命(1789-99年)は絶対王政下における社会・身分制度に見られた矛盾に根ざして起こった革命であり、山岳派は世界史の教科書でもおなじみのマラー・ダントン・ロベスピエールといった急進的革命家を要した派閥である。

 

なお、政治的立場・思想を指し示す左派・左翼(=急進派・改革派)の語源もフランス革命にあると言われ、これは国民議会(のち憲法制定国民議会)で議長席から見て左側の席を急進派が占めていたからであるとされる。

 

○「非伝統的脅威」とは

テロはいわゆる「非伝統的脅威」に分類される。戦争をはじめとする武力紛争、日本が直面する北朝鮮の核開発・ミサイル発射実験、あるいは尖閣諸島の領有権問題などは伝統的安全保障の領域に属する問題であり、たとえば中国の軍拡や威嚇を含む軍事行動は「伝統的脅威」である。

 

一方、自然発生もしくは人為的に生み出された状況によって不特定多数の人々の安全が脅かされるもの、たとえば気候変動や自然災害、感染症、貧困、食糧不足、不法移民および難民の大量発生などの問題は非伝統的安全保障の領域に分類される。

 

そのような非伝統的安全保障の領域において、主として非国家主体によって作為的につくられる危険や脅威を「非伝統的脅威」という。例を挙げると、テロや海賊行為、越境犯罪組織による麻薬や兵器の密輸・密売、マネーロンダリング、クレジットカード偽造、人身売買とそれに伴う不法強制労働・組織的売春などである。

 

これらの非伝統的脅威は「新しい」という意味で「非伝統的」と言われているわけではない。テロも海賊も麻薬の問題も、ウェストファリア条約(1648年)によって近代主権国家体制が成立する以前から歴史的に存在していた。テロや海賊それ自体は古来問題とされてきたが、その性質が不変ではない、中身が一新しているという意味で「非伝統的」なのである。

 

○テロの定義

テロの定義は、安全保障と同様に、万人に受け入れられた普遍的なものがあるわけではなく、国や地域、あるいは研究者ごとにかなり多様である。これはテロを定義することが不可能であるというわけではなく、定義をする者の価値観や世界観によってテロをどう認識するかに差異が出るからであると言える。

 

見る者によっては、あるテロ行為が「自由・解放のための聖戦」と映ることもあれば、それが別の者にとってはただの犯罪行為に見えることもある。

 

現に、日本にはテロを明確に定義する法律はないものの、米英などの諸外国には法律上定義が存在し、実際に運用されている。ここでは「非国家主体が、公共の安全を脅かす不法な行為を行い、かつ国家または社会の一部が不安・動揺・恐れる現象」(宮坂直史・防衛大教授)をテロの定義の一例として挙げておきたい。

 

この定義からもわかるように、暗殺・人質・爆弾使用などの行為自体はテロではない。あくまでそれらの手段によって、国家・社会を震撼させる「現象」をテロと呼ぶのである。

 

このような前提に立てば、テロリストとメディアは一種の共生関係にあると言え、日本においては1963年の「吉展ちゃん事件」で報道協定が結ばれたことを契機に、そのような認識が一般に広まった。場合によっては、マスコミによる報道が事件を長引かせ、事態を更に悪化させる可能性も十分にあり得る。

 

また、新聞・テレビを凌ぐ勢いでYouTubeなどの動画共有サービスやSNSが広く普及した現代においては、一個人が情報に触れる絶対量が圧倒的に増えており、かつほとんどリアルタイムで情報が拡散するため、テロリストにとっては以前にも増してテロを起こしやすい環境が整っている。その結果、一般市民にとってもテロがより現実味を帯びてきているように思われる。

 

何を以てテロ行為と見なすかについては、1960年代から現代まで作成されてきた13本の国際テロ防止関連条約・議定書および3本の改正議定書に求められるが、具体的には人質、ハイジャック、爆弾テロ、核テロなどがある。

 

なお、日本では船の乗っ取りを「シージャック」、バスの乗っ取りを「バスジャック」などと表記されることがあるが、乗り物の乗っ取りはすべて「ハイジャック(hijack)」であり、正しくは「シー・ハイジャック(Sea-hijack)」、「バス・ハイジャック(Bus-hijack)」である。

 

(つづく)

日中「海上連絡メカニズム」暗礁に

headlines.yahoo.co.jp

 

以前の記事とも重なるが、「対話による平和」の追及は、あくまで双方の意思がなければ上手くは行かない。

 

「海上連絡メカニズム」は2008年に日本政府のイニシアティブで協議が開始されたものであるが、実質的な進展がほとんど見られなかったのは、中国政府側が一方的に協議を中断したからであった。

 

その後、12年までの4年間で3度にわたる「日中防衛当局間の海上連絡メカニズムに関する共同作業グループ協議」が実施されたものの、「同メカニズムが、不測の衝突を回避し、両国防衛当局間の相互信頼と実務協力を増進させるとともに、両国の戦略的互恵関係の包括的な発展を推進することに資する、との認識で一致(※)」するにとどまっている。

 

そして昨年11月の日中首脳会談での合意を機に、今年1月に協議が再開されたものの、今回日本側が提示した「連絡メカニズムの対象範囲に領海・領空を加えない」という合意文書案に中国が応じておらず、再び協議が暗礁に乗り上げようとしていると報じられている。

 

中国側の妥協を引き出すには、習近平やその顧問、共産党政治局常任委員会のメンバーなどが何を見返りに求めているのかを冷静に見極め、それ相応の「アメ」を与える必要がある。しかし、彼らのコスト‐ベネフィット計算や意思決定過程は知りようがない以上、そこは日本の戦略的な駆け引きと外交力が試されるところである。

 

蓋し、日中双方にとって「平和のための対話」であるにも拘らず、国際政治においてはそれが一筋縄にはいかないという現実を知る上ではいいニュースではないだろうか。もちろん日本の安全保障にとっては全然いいニュースではないけれど。

 

(※)日中防衛当局間の海上連絡メカニズムに関する第3回共同作業グループ協議(結果概要)

人民解放軍30万人削減発表の意図

China Announces Cuts of 300,000 Troops at Military Parade Showing Its Might

 

9月3日、中国は天安門広場にて「日本の戦争の罪を強調し、戦争における中国共産党の役割を美化するために考案された」抗日戦争・反ファシズム戦争勝利70年記念式典を執り行った。

 

式典は70発の礼砲で始まり、国旗掲揚に続いて行われた国家主席演説の中で、習近平は中国が「祖国の安全と人民の平和な生活を守るという神聖な義務に忠義を尽くし、そして世界の平和を守るという神聖な義務に忠義を尽くす」中国人民解放軍の人員30万を削減する予定であることを発表した。

 

習近平のこの演説に関して、中国側の狙いは、軍拡および現状変更的な動向、とりわけ南シナ海で顕著な強制外交に対する各国からの批判をかわすことにあると日本の多くのメディアでは報じられている。しかし何のことはない、これはただの軍隊の近代化の一過程、ある意味では「軍備増強」の再確認であると見ることができる。

 

人民解放軍の兵力や装備、組織構成は公式に情報公開されているわけではないが、総兵力は約230万、うち陸上兵力が160万を占めると推定されている。少子高齢化が急激に進む中国では軍内部でも「尻すぼみ」問題が深刻化しており、予てから兵員削減が実施されてきた。そして同時に軍隊の近代化、すなわち陸上戦力重視から海・空戦力重視へのシフトが急ピッチで進められている。中国は陸上兵力の削減による余剰資金を海・空戦力に投資し、その増強を図っているのである。

 

要するに30万人削減発表は、これまで進められてきた「ランドパワー(Land Power)からエアシーパワー(Air-Sea Power)へのシフト」という中国の安全保障戦略が、習近平によって改めてアナウンスされたにすぎない。

 

これはある程度の知識とセキュリティ・センスがある人にとっては当たり前のことではあるが、多くの日本人にとってはそうではない。だからこそ、自衛隊の能力強化や集団的自衛権行使容認、あるいは日米同盟の深化による対中「抑止」ではなく、中国との軋轢は「対話」で解決すべきであるという意見が多く出てくるのであろう。

 

しかし、「対話による平和」を強調する人に限って、それがこちら側の意思だけではどうにもならないことを理解しようとしない。「片想いは通じない」のが冷酷な国際政治の現実である。その一方で、冷徹かつ合理的なバランス・オブ・パワーの追及こそが、東アジアの国際関係に安定をもたらす。少なくとも、現状変更国家である中国に「対話」を求めるよりは、よっぽど日中間の武力紛争を抑止する効果を発揮するのではないだろうか。

 

もう一つ、「121歩」(国旗掲揚時の護衛隊の行進歩数121歩が日清戦争勃発から121年間を示している)に関しては過度に反応すべきではない。あんなものは中国国民の反日感情を煽るための単なるパフォーマンスであり、いちいち挑発に乗っていてはキリがない。

 

要は相手と同じ土俵には決して乗ることなく、戦争をしない、させない平和国家であり続けるために、どこまでも冷静に、今やるべきことを淡々とこなすことである。