次期国防長官のカーターは物理学者だけれど


Ashton Carter, passed over before, gets picked by Obama to be defense secretary - The Washington Post

 

先週末、次期国防長官に指名されることが発表されたアシュトン・カーター(Ashton B. Carter)は、パネッタ前国防長官、ヘーゲル現国防長官の下で昨年12月まで背広組のナンバー2のポストである国防副長官を歴任し、またゲーツ元国防長官の下では兵器購買責任者も務めていた安全保障分野の第一人者である。

 

カーターは軍人ではなく物理学者であり、イェール大学で学士号、そしてローズ奨学生としてオクスフォード大学で理論物理学の博士号(Ph.D)を取得している。カーターはヘーゲルのように軍歴があったり著名な上院議員であるわけでもなく、高級技官(technocrat)として安全保障の分野でキャリアを築いてきた。しかし「ローズ奨学生(カーター)には、ペンタゴンがいかに動き、彼の主張を通すためにはいかに無遠慮な言葉を用いればいいのか内部者としての理解がある」と報じられている。

 

ちなみにローズ奨学金はオクスフォード大学の大学院生に与えられるもので、アメリカにおいてローズ奨学生は超エリートの証であり、これを得た者はパワーエリートの道が約束されたも同然であるといわれている。有名どころでいえば、クリントン元大統領や国際政治学者のジョセフ・ナイ、政治哲学者のマイケル・サンデルなどがローズ奨学生である。

 

国防省のエリート高級技官として技術畑を歩み、かつ兵器購買責任者を務めていたこともあるカーターは、ハイテク新兵器の導入やUAV(Unmanned Aerial Vehicle: 無人航空機)を用いたいわゆる"Drone Wars"に積極的であり、これがオバマの基本方針と合致していたことが、今回の指名に繋がったという見方もある。 

 

ただし、スーザン・ライス(Susan E. Rice)国家安全保障問題担当大統領補佐官はペンタゴンに対してかなり細部にまで口を挟んでいるらしく、これがヘーゲルホワイトハウスの軋轢の根底にあったと度々報じられていることから、その辺を上手くかわす調整力が求められよう。

 

アメリカの次期国防長官がバリバリの理系ということであるが、安全保障に限らず政治学や経済学といった社会科学を本格的に専攻し、その道に進むことを望むのであれば、学部4年間は数学や物理を専攻して大学院以降に文転するのがベターではないかと思う。今更だけど。

 

アカデミックの世界をめざすにしろ、実務者として政策に携わっていくことをめざすにしろ、文系の領域こそ、実は数学や物理学を基盤とする「理系的なモノの見方」が必要なのではないだろうか。とくに実務に携わるのであれば尚更そうであるように思われる。

 

文系の人間からすると、理系は理論や数式に拘泥するようなイメージがあるが、実は文系人間の方がよっぽど「理論」や「公式」に囚われやすかったりする。現実が理論通りにならないとオロオロしてしまうのは、理系よりもむしろ文系である。

 

現実世界の不確実性を前提にしつつ、論理的に、時に複雑な数式を駆使しながら思考できるというのは、どの世界で生きていくにしろ大きな強みである。

 

というわけで、僕たちが第一に求める人材は「鬼のように数学ができます!」「確率・統計が縦横無尽に使いこなせます!」って人だったりするのだけれど、「周囲の誰よりもアラビア語ができます」でも「コンピュータオタクです」でも、「福山雅治よりイケメンです」でも「佐々木希より美人です」でも、何でもいいからとにかく自分なりの強味がある人と一緒にやっていきたいと考えているのであります。