leaner and meaner――スリム化して精強にする

世界中に軍を展開するアメリカは各国軍の再建を担っていて、米軍のノウハウを移植することで軍と軍とのインターオペラビリティ(相互運用性)の効率化を図っている。これらの任務で中心的な役割を果たすのが、特殊部隊が主体となって組織された、いわゆる軍事顧問団である。

 

国が違えば当然ではあるが、実は同じ国の軍隊でも軍種によって組織文化は全然違う。

 

たとえば、普天間基地には米海兵隊の航空部隊の飛行場が敷設されているが、これを嘉手納基地に移設することができない理由の一つとして、嘉手納は米空軍の飛行場であり、海兵隊と空軍が飛行場を共有するのは互いに「ありえない」からであるとも言われる。

 

また、陸・海・空自衛隊では、部隊の空気や隊員の雰囲気は全く異なる。組織文化が異なれば、当然それぞれの「常識」も違う。もし各々の隊員、特に指揮官がそれらの「常識」に囚われてしまえば、円滑な統合運用は覚束ない。東日本大震災のような自然災害や、あるいは外敵の急襲などの緊急事態が起きた際には、軍種間のインターオペラビリティが危機管理の大きな鍵を握る。だからこそ、幹部自衛官、すなわち陸・海・空自衛隊の指揮官・幕僚となるべき者が一堂に集い、教育訓練を受ける防大には大きな価値があるのだ。

 

それはともかく、現代の軍隊が担うオペレーションの特質から、軍種間・軍隊間のインターオペラビリティの重要性は増すばかりである。無論、国際政治や安全保障の分野でインターオペラビリティといえば、同盟国間の相互運用性を指すことが多く、日本にとっては米軍とのインターオペラビリティが極めて重要になる。

 

話を戻すと、米軍はアメリカの世界戦略に基づき、同盟国をはじめとする各国軍の「米軍化」を進めてきた。そしていま最もホットなのが「イスラム国」掃討のためのイラク軍の再建であるが、ここ十数年の苦い教訓からアメリカはその戦略を一新したという。

 

その新戦略が 'Leaner, meaner'(部隊をスリム化し、精強にする)であるというのが以下の記事。


U.S. seeks to build lean Iraqi force to fight the Islamic State - The Washington Post

 

政府高官によれば、オバマ政権としては定員45000人の9個軽歩兵旅団を先遣隊の中に新設することを構想しているという(※)。そして陸軍全体を強化することを断念する代わりに、この部隊を集中的に訓練する。非対称戦を想定した対イスラム国戦略としての、イラク陸軍のスリム化による精強化である。

 

(※) 旅団( Brigade)とは約1600~6000人で構成される陸軍の部隊編成単位。ちなみに旅団より1スケール小さな編成を連隊(Regiment)と呼び、旅団より1スケール大きな編成を師団(Division)と呼ぶ。

 

現代の軍隊の最大のコストは人件費であり、兵士一人を育成するのにも莫大な金と時間が掛かってしまう。さらには一昔前に比べれば人命のコストも高くつくようになっていることから、それならばいっそのこと少数精鋭の士に対し、より質の高い訓練を施す方が費用対効果は高くなる。

 

限られた資源の中で量と質のどちらをとるかという選択は、非常にシンプルでありながらも目標の達成にダイレクトに影響する。的確な彼我の状況判断に加え、あらゆる手持ちのカードを比較考慮し、相手の動きに対してこちらは何を選ぶか、あるいは何を捨てるかを迅速に決断することができるということが、戦略的であるということなのである。