北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか②

 
費用の面もさることながら、イージス・アショアにはシステム面においても重大な懸念事項があった。
 
イージス・アショアは発射直後にミサイルを垂直に推進させるブースターが付いており、そのブースター部分が上空で切り離されて地上に落下する仕組みになっている。
 
ゆえにブースターの落下地点によっては、たとえばもし市街地や住宅地に落ちるようなことがあれば、それこそ大事故につながる可能性もある。
 
配備候補地の一つであった陸上自衛隊・むつみ演習場(山口県)近隣の地元住民、および山口県はブースターが住宅地に落下する事態を危惧していた。
 
しかし、そもそもイージス・アショアにはブースターの落下地点をコントロールする発想は設計上まったくなく、ブースターや破片などがどこに落ちるかについては考慮されていなかった。
 
そこで防衛省自衛隊は、ミサイルの速度と飛翔方向・上空の風向きと風速・落下時のブースターの姿勢を基に落下位置をあらかじめ算出し、算出した地点にブースターを落とせるよう、燃焼ガスを噴出するノズルの向きをソフトウェア上で変更することによって、ミサイルの飛翔経路をコントロールしようとした。
 
ソフトウェアの改修にあたり、アメリカ側との調整も進めていた。
 
 
2018年8月以降、防衛省山口県の関係自治体、そしてむつみ演習場近隣の地元住民に対し「演習場内に確実に落下させる」と繰り返し説明しつつ、必要な措置を講じることを約束するとともに、もう一つの候補地である陸上自衛隊・新屋演習場(秋田県)から発射するミサイルについては、一貫して「ブースターは海に落下する」と説明してきた。
 
だが配備候補地となった2県の地元住民からは、ミサイル発射時のブースターの落下に対する危惧だけでなく、敵の標的になる可能性やレーダーの電磁波による健康被害を不安視する声も上がっており、また一部では抗議デモや署名などの反対運動も起きていた。
 
それでも閣議決定されたイージス・アショアの配備を実現するために、防衛省には地元住民から配備に対する理解と協力、そして何より信頼を得るべく、真摯で誠実な対応が求められたのは言うまでもない。
 
それにも拘らず、2019年6月、秋田県をはじめとする関係自治体などに向けた防衛省説明資料に数値の誤りが散見されることが報じられ、その直後の6月8日秋田市で開催された説明会では、東北防衛局調達部次長が居眠りをし、地元住民の激しい怒りを買った。
 
たび重なる防衛省の不手際に不信感を抱いた秋田県佐竹敬久知事は、6月10日の県議会で話は振り出しに戻った」と述べ、防衛省との協議を白紙に戻す考えを表明した。
 
6月17日には岩屋毅防衛大臣当時)が秋田市を訪れ、佐竹知事や秋田市の穂積市長と会談し、直接謝罪を行っている。
 
また同月、山口県向けの説明資料に関し、むつみ演習場の北西に所在する西台の標高について国土地理院のデータと異なる数値が記載されていたことも明らかになった。
 
その後、新屋演習場に関しては、ゼロ・ベースで配備候補地を選定するための再調査が、むつみ演習場については、付近の地形等がレーダーの遮蔽とならないかどうかを確認するための測量調査が実施されることとなった。
 
 
2020年を迎え、まもなくアメリカ側が実施した技術的な分析・評価から得られたより精度の高い情報をもとに、防衛省内で緻なシミュレーションが行われた。
 
その結果、ブースターを演習場内に落下させるためには、ソフトウェア上での修正だけでは難しいことが判明し、5月下旬には、ミサイルハードウェアを含むシステム全体の大幅な改修が必要になることが明らかになった。
 
日米共同開発の弾道弾迎撃ミサイル「SM-3ブロックⅡA」にはそれまでに約12年の歳月と2000億円余り(日本側の負担額は約1,100億円)の資金が費やされていた。
 
ハードウェアの改修のためには、18億ドルの追加費用と10年の期間を要する上、ミサイル自体の能力がこれ以上向上するわけでもない。
 
 
河野防衛大臣(当時)は6月3日、そして12日にも安倍首相と会談し、これ以上プロセスを進めてもコストに見合わず、配備計画は中止せざるを得ない旨を伝え、15日にイージス・アショア配備計画の停止を発表するに至った。
 
こうしてイージス・アショアの配備計画は立ち消えになったわけであるが、北朝鮮の核ミサイルの脅威は依然として目の前にある。
 
イージス・アショア配備の代替案が模索される中、選択肢として急浮上したのが「敵基地攻撃能力」保有であった。
 
(つづく)
 

核兵器禁止条約?こわいねこわいね…

本日10月26日の全国紙(朝日・毎日・日経・読売・産経)の朝刊では、5紙すべてが1面で(→ではなく産経は2面で、1面トップは東京新聞の方でした。すみません…)「核兵器禁止条約」が来年1月22日に発効されることを報じている。

 
核禁条約については、「北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか」シリーズのどこかで触れようとは思っていたが、せっかく今日のトップニュースになっているので一言だけ私見を述べておくと、もし世界から核兵器がなくなったら、それこそ世も末である。
 
なぜなら核兵器のない世界は「絶対戦争」を誘発しかねないからである(これについてはだいぶ補足が必要になるので、また別の記事にて詳しく書きたいと思う)。
 
核兵器がなくなればこの世界は平和に、すなわち戦争のない世界が訪れるのだろうか。
 
人類がいつから闘い、争い、奪い合い、殺し合っているのかを考えてみれば、核兵器のない世界は決してユートピアではないということは想像に難くないであろう。
 
核禁条約の目的が核のない世界の実現なのか、それとも平和な世界を実現することなのかは不勉強なのでよく知らないが、核兵器のない世界は平和な世界でないことはたしかである。
 
それをオブラートに包んだ表現が、↓の記事にある米国務省当局者の、核保有国が加わらない同条約を支持する各国は「戦略的誤りを犯している」云々であると言える。 
 
 
以上、どうせめざすなら核兵器のない世界よりも、平和な世界=戦争のない世界の方が良くない?という話でした。
 
※ちなみにタイトルの「こわいねこわいね…」は、娘(3歳)の最近の口ぐせである。
 

北朝鮮のミサイルから日本をどう守るか①

今現在、日本の安全保障関連でホットな話題といえば、日本のミサイル防衛(MD)に関するものであろう。
 
より具体的には、「北朝鮮のミサイルの脅威から日本をどう守るか」という話である。
 
 
先月24日、政府は導入を断念した「イージス・アショア」の代替策として、その構成品であるレーダーやシステム、迎撃ミサイル発射装置の一式を洋上で運用する三つの案を自民党の関係部会に提示した。
 
その内容は、(1)弾道ミサイル迎撃に特化した専用艦を含む護衛艦型、(2)民間船舶活用型、(3)石油採掘のような海上リグ型、であると説明されている。
 
しかし、いずれの案も技術的な検証が不十分であり、人員・コスト等の面で課題も多く、また与党の意見集約が難しい上、アメリカ側は「合理的でない」と異論を唱えているなど、議論は難航すると見られている(※1)
 
 
 
今後は「洋上運用3案」の中から絞り込む方針となってはいるが、筆者としては、この3案が出される前に話題になっていた「敵基地攻撃能力」の保有に関する議論が深まることを期待していた。
 
「敵基地攻撃能力」に関する問題は、憲法9条に基づく戦後日本の安全保障政策の大原則とされてきた「専守防衛」に関わる重要な議論であるが、それゆえに安全保障の専門家以外からは避けられがちなテーマでもあるため、本ブログでは積極的に取り上げていきたい。
 
本題に入る前に、まずはイージス・アショアの導入が断念されるに至った経緯について、あらためて振り返りたいと思う。
 
 
今から約3年前、2017年12月に安倍内閣は「イージス・アショア」の導入を国家安全保障会議NSC)で承認、ならびに閣議決定した。
 
北朝鮮は1993年に日本海に向けて最初の「ノドン1」を発射して以来、着実にそのミサイル関連技術を向上させてきた。
 
特に近年、ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮の脅威が急速に増大しており、その脅威から日本をどのように守っていくのかについて具体的に検討する必要性が高まっていた。
 
そこで自民党安全保障調査会は2017年3月30日、イージス・アショアや最新鋭迎撃システム高高度防衛ミサイル(THAAD)導入の検討を急ぐべきである旨、政府に提言した。
 
THAADに関しては、稲田朋美防衛大臣(当時)が1月13日にグアムのアンダーセン空軍基地での視察を終えていたが、導入費が高くつき、かつイージス・アショアに比べて防護可能な範囲が限られるなどの理由から、5月15日の参院決算委員会でイージス・アショアの導入検討を本格化させることが明らかにされた。
 
そして8月17日に開かれた外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)において、日本政府はイージス・アショアの導入方針をアメリカ側に伝えた。
 
2プラス2から約2週間後の8月29日には、北朝鮮西岸の順安から北東に向け発射された新型の中距離弾道ミサイル「火星12」が北海道上空を通過し、襟裳岬から東に1180キロの太平洋上に落下する事案が発生した。
 
北朝鮮のミサイルが日本の上空を通過したのは通算5度目となり、これは発射方向を事前に予告しない「異例の」ミサイル発射実験でもあった。
  
北朝鮮は、2017年2月から11月の間に計16回に及ぶミサイル発射実験を行い、大陸間弾道ミサイルICBM)の打ち上げにも成功した。
また、「火星12」の発射実験から5日後には6度目の核実験を行っており、これについて国営の朝鮮中央テレビは「水爆実験に成功した」と報じている。
 
急速に核戦力を増進し、アメリカや同盟国である日本・韓国を攻撃すると脅しをかける北朝鮮金正恩委員長に対し、アメリカのトランプ大統領は国連演説の中で「アメリカと同盟国を守ることを迫られれば、北朝鮮を完全に破壊する以外の選択はない」と警告するなど、「チビのロケットマン」と「おいぼれた犬」の応酬は互いに核戦争の可能性を示唆するにまで至った。
 
 
いずれにせよ、核兵器を有する北朝鮮のミサイルにいかに対処するかという問題は、日本の平和と安全を守る上でも極めて重要であることに疑いはない。
 
日本のミサイル防衛は、まず海上自衛隊イージス艦から発射される弾道ミサイルが大気圏外(ミッドコース段階)で敵ミサイルを迎撃し、もしそれが外れた場合には、航空自衛隊ペトリオットミサイル(PAC-3)が大気圏に再突入した後(ターミナル段階)で迎撃するという、二段階の多層防衛を基本とする。
 
もちろん、極力遠く(大気圏外)で、すなわちイージス艦で迎撃できるに越したことはない。
そうであれば、イージス艦の数を増やすことでより精度の高い迎撃態勢を整えられそうではあるが、慢性的な人員不足に悩む海上自衛隊が新たに300名の乗組員を確保するというのは、他のオペレーションの遂行にも影響を及ぼしかねない以上、得策とは言えない。
 
そこで陸上配備型のイージス・アショアを導入することにより、「わが国を24時間・365日、切れ目なく守るための能力を抜本的に向上できる」(『平成30年版 防衛白書』)と目されたわけである(※2)
 
(※2)イージス・アショアの根幹をなすイージスシステムとは、メリカ海軍が開発した海上弾道ミサイル防衛システムである。開発当初の目的である艦隊防空はもちろん、高度な索敵能力、情報処理能力および対空射撃能力を備える画期的なシステムであり、その汎用性は極めて高く、防空戦闘以外にも海軍の様々な任務に対応可能であることから、イージスシステムは巡洋艦駆逐艦フリゲートの3つの艦種に搭載されている(イージスシステムを搭載したこれらの艦艇の総称が「イージス艦」であり、イージス艦という個別の艦種が存在するわけではない)。そしてイージス・アショアは、イージス弾道ミサイル防衛システムの陸上コンポーネントである。要は「陸のイージス艦(のBMD特化版)」と言えよう。< https://www.lockheedmartin.com/en-us/products/aegis-combat-system/aegis-ashore.html >
 
さて、気になるイージス・アショアのお値段であるが、これがまたべらぼうに高い。
 
当初見積り価格は、基体の取得価格のみで1基あたり約800億円、日本全土をカバーするには2基必要になるので、約1600億円程度とされていた。
 
しかし、蓋を開けてみれば1基あたり約1340億円(当初比7割増)、向こう30年間の維持・運用の経費を含めると2基で約4664億円にのぼるという。
 
さらにこの額には、イージス・アショア自体の防護対策費や弾薬庫等関連施設の整備費、そして1発30億~40億円と言われる「弾」(SM-3ブロックⅡA)数十発の取得費用などは含まれていない。
 
実際に運用する上で必要となる諸費用を全て合わせた総額は6000億円以上(「産経新聞」2018年7月23日)、あるいはFMS調達(※3)によりアメリカ政府が契約の主導権を握るため、「総額は見通せない」(「日経新聞」2018年7月30日)と報じられた。 
  
(※3)対外有償軍事援助(Foreign Military Sales: FMS)を利用した調達。FMSはアメリカ国防総省が実施している対外軍事援助プログラムで、経済的な利益を目的とした装備品の販売ではなく、アメリカの武器輸出管理法などの下、アメリカの安全保障政策の一環として装備品ならびに教育訓練等の役務を有償で提供するものである。輸出窓口は製造メーカー等の企業ではなく政府(アメリカ国防安全保障協力局)となり、それによって最新鋭・機密性高い装備品を輸入でき、かつ教育・訓練の提供を受けることができるなどのメリットがある。その一方で、価格は見積りであり、原則前払いで履行後に実質精算されるため、当初見積り額から高騰することもある上、納期が年単位で遅れることもザラで、また実施条件についてはアメリカ側に従う必要があるといったデメリットがあることも無視できない。
 
(つづく)
 

【解説・所感】NNNドキュメント「防衛大学校の闇」③

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NNNドキュメント「防衛大学校の闇」

【解説・所感】NNNドキュメント「防衛大学校の闇」①

【解説・所感】NNNドキュメント「防衛大学校の闇」②

 

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2学年に進級したNさんは、ゴールデンウィーク(GW) 中にある服務事故(服務規律違反)を起こす。

 

そしてこの服務事故をきっかけに、GWが明けると今度は4学年、それも中隊学生長から「指導」の名の下に暴行を受け、Nさんの居室の机・本棚、寝室のベッド・ロッカー・衣装ケースは3日連続で飛ばされた(※)

 

さらには上級生にとどまらず、複数の同期からも暴行を受けることとなる。

 

(※)動画6:33~を参照。

 

番組では1学年の中期に同部屋の3学年から暴行を受けた場面に続き、2学年GW明けに話が飛んでいる。

 

だが、防大生活で最も重要な時期は1学年後期(1月〜3月)から2学年のGW前までであるため、ここでは1学年中期にさかのぼって順に話を進めていきたい。

 

さて、実は1学年中期(8月〜12月)というのは、前期・後期と比べ日数が多いので長くは感じるものの、1学年にとってはさほどきつくはない。

 

前期を通じて防大生活全般に慣れるというのもあるが、それ以上に中期は大隊対抗の競技会等の行事が多く、特にそれらの行事に熱心な上級生が1学年に対して懐柔策に走るため、場合によっては前期は鬼のように1学年をシバきまくっていた上級生がまさに人が変ったようにフレンドリーキャラに豹変することもある。

 

中期に入るとまもなく大隊対抗の水泳競技会と学科の定期試験があり、それが終わると1学年は北富士演習場での秋季定期訓練に入る。

 

その後は開校祭の準備期間となり、棒倒しや演劇祭、観閲パレード訓練等々に追われ、この間、校友会によってはシーズン真っ只中である。

 

開校祭が終わると、3・4学年は冬季定期訓練があり、4学年は並行して卒研・卒論にかなりの時間を割かなければならない。

 

さらに人によっては、クリスマス・ダンスパーティーに参加したり、3学年は中長期にわたり各国の士官学校に派遣されたりもする。

 

そういった事情で、中期は学校全体がせわしく、またエンジョイモードに入るため、学生舎内の雰囲気も前期の殺伐としたものとはガラッと変わるのである。

 

もちろん、後期までそれが続くわけではない。 

 

冬休みを挟んで後期に入ると、またもや1学年は戦々恐々の日々を送ることとなる。

中期で緩んだ空気が一変、再び「防大1学年らしい」毎日となるのだ。

せっかくここまで耐え忍んだにも拘らず、後期の追い込みに心が折れ、退校してしまう1学年も少なくない。

 

後期の学生舎における下級生指導は3学年が主体となる。

3学年は4学年への進級時、全員がそのまま同じ中隊に残留する。

ゆえに3学年にとっての後期とはすなわち「4学年前期の予行演習」である。

 

特に後期には2学年が冬季定期訓練(スキー訓練)のため約1週間ほど不在となる期間があるが、この期間は多くの中隊で「ヘル・ウィーク(地獄週間)」に突入する。

 

それも1学年の誰かが服務事故を起こしたわけでもなく、「お前たちが2学年に上がって新しい中隊に行っても恥をかかないように」だとか「カッター期間に向けた準備」などというかなりお節介な理由でヘル・ウィークが催されるのである。

 

このヘル・ウィーク期間中は極めて理不尽かつ強烈なシバかれ方をする。

 はたから見ればまさに「凄惨ないじめ」であろう。

 

有無を言わさぬ上級生の猛攻にひたすら耐えるのみである。

 

ではなぜ耐えるのか。

 

逃げたら負けだからである。

 

たとえどんなにきつかろうが辛かろうが逃げ出さない。

一歩間違えれば死を選びかねない、そういった状況を乗り越えてきた経験のある人間と、辛い状況から逃げた人間では、その後の人生に雲泥の差が生じるのは自明である。

 

1学年最後の猛攻を耐え忍んだ暁であるかように、後期の終わりに陸海空の要員

(※)と学科の進学先が指導官から発表される。

 

(※)1学年は「共通要員」であり、2学年進級時に陸海空いずれかの要員に振り分けられる。

 

後期が終わると春休みに入るが、自分の場合、春休みは全日校友会の春合宿であった。

合宿先から直接学校に戻ると、晴れて2学年(仮)としての新たな防大生活が始まる。

 

そしてこの日から約1ヶ月もの間、人生最大の地獄を味わうことになるのである。

 

(つづく)

 

自由とはなんぞや

 

各種メディアで取り上げられ、10歳にして「時の人」となっている天才革命家YouTuberゆたぼん。

 

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僕は、3年生の1学期くらいに、不登校になりました。

なんで不登校になったかというと、まわりの子たちが、ロボットに見えたからです。

なんでロボットに見えたかというと、親のいうことと、教師のいうことをハイハイ聞いていたからです。

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学校で出された宿題を提出せずにいたところ、先生に強制的に居残りさせられた上に体罰を受け、それをきっかけに不登校になったという。

 

宿題未提出→先生に怒られ、叩かれる→もうイヤだ、学校に行かない!

→「みんな、自由に生きよう!」「やりたいことをやろう!人生は冒険や!」

 

という図式である。

 

ちなみに、ゆたぼんのTwitterのプロフィール欄は以下の通り。

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不登校の天才YouTuber 10歳 自由人‼️ ゆめのたねラジオの最年少パーソナリティ 俺と同じ不登校の子とか苦しんでる子に元気を与える‼️不登校の子とか世界に行きたいって言う子を1000人集めて、子ども1000人で子どもだけが乗れる子どもピースボートを作る‼️世界中を見て回って世界中に友達を作って戦争をなくす‼️

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この世界から戦争をなくそうとは何とも壮大な野望である。

おそらく海賊王になるよりも難しいだろう。

 

それはさておき、本人はまだ10歳なので、これはそのまま親の信条ないし親の教育方針であると見ることができる。

 

それゆえに、ネット上には彼の父親に対する批判も多く、それらの批判に対する父親の反論も確認できる。

 

 

 

私見としては、他人の家の教育方針にとやかく言う気はないし、ゆたぼんが10年後、20年後にどうなっているのかなんて現時点では誰にもわからないので、将来が楽しみですね、としか言いようがない。

 

ただ、ゆたぼんの投稿動画やTwitterを見て気になったのが、やたらと「自由」というワードを乱発している点である。

 

かの尾崎豊

自由っていったいなんだ~い♪

どうすりゃ自由になるか~い♪

と叫んでいたが、「自由」というのはなかなか難しい概念であって、単に好きなこと、やりたいことをすることが自由とも言い切れないし、一方で嫌なことをしないことが自由であるとも言えないのである。

 

ただ1歳半の娘を持つ父親としては、自分の娘にはやりたいこと、好きなことをやって一度きりの人生を充実したものにしてほしいし、常に幸せであってほしいと願っている。

 

願ってはいるが、それには好きなこと、やりたいことをすることに伴う多くの忍苦、忍耐に折れることのない強い心と犠牲の精神、それも自発的な精神を培う必要がある。

 

言い換えれば、本当に好きなこと、やりたいことを貫く人生というのは、強く「自由な心」のみが達し得る領域であるというのが私の信条であり、子供がそこに至るまで可能な限りサポートすることが親としての自分の役目であると考えている。

 

そんなわけで、今夜はあらためて以下の2冊を読み込むこととしたい。


自由と規律―イギリスの学校生活 (岩波新書)

【解説・所感】NNNドキュメント「防衛大学校の闇」②

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NNNドキュメント「防衛大学校の闇」

【解説・所感】NNNドキュメント「防衛大学校の闇」①

 

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夏の定期訓練終了後、短い夏休みを挟んで中期(8月〜12月)が始まる。

 

中期に入れば心機一転、部屋員は総入れ替えとなり、1学年にとっては新しい部屋長をはじめ、これまで「敵」であった上級生が味方に変わる願ってもないチャンスの到来となる(※1)

 

(※1)基本的に同部屋の上級生からシバかれることはないので、たとえば上級生の中でも特に「あの人はヤバイ」と恐れられている上級生や、すぐに報告書や反省文を書かせたがる面倒な上級生と同じ部屋になった1学年は、ある意味かなり得をすることになる。

 

学生舎生活では、同じフロアに住まう中隊(約100~120人)単位が基本となる(※2)

 

(※2)防大生の編成単位は 学生隊>大隊>中隊>小隊 である。

 

たとえば、同部屋になる同期・上級生・下級生は皆同じ中隊に所属する学生であり、点呼(※3)や清掃、容儀点検(※4)、ミーティング(※5)、あるいは廊下ですれ違った際にシバかれるのは、基本的には同じ中隊の上級生からということになる。

 

 (※3)人員現況を確認するための厳正な日課のひとつ。起床直後、大隊毎に学生舎前(室外)に集合して行われる日朝点呼と、夕食および夕清掃後に中隊ホール(室内)で行われる日夕点呼の計2回実施される。

 

(※4)4学年が点検者となる服装点検であるが、たとえどんなアイロンがけのプロであろうが、靴磨きのプロであろうが必ず落とされるというあまりにも理不尽な点検である。そのために毎日何時間も上級生の目を盗んではアイロン(これを防大ではプレスという)をかけるが、結局のところ落とされる。わずか1ミリのシワでも許されず、真の完璧さが要求される(人間の能力では到底不可能である)。また、上級生がまだ眠っている明け方にプレスをする「オハプレ」という高等技術も存在する。当然、オハプレをしているところは絶対に見つかってはならない。そんな日々の努力も報われず、点検のたびに「プレス、および着こなし、および靴の磨き不備!」などと大声で復唱させられるのである。

 

(※5)入校式や卒業式などとは比べ物にならないほどの防大生活最大のイベントであり、そこはまさに「屠殺場」の様相を呈する。ある部屋に中隊の1学年が全員集合・整列させられ、その部屋には殺意をたぎらせた上級生が待機している。このミーティングでは普段とは比較にならないほどの大声で怒鳴り散らされ、少しでも着こなしが甘かったり、姿勢が崩れたりしようものなら即「ロックオン」となり、胸ぐらを掴まれ、あるいは後ろから襟を掴まれて列から引きずり出される。特に最後列の1学年は、上級生が真後ろにいることもあり恰好の餌食となる。個人的には、「3-1ミーティング」(3学年主催の1学年に対するミーティング)での地獄絵図だけは一生忘れない。

  

さて、Nさんは中期に入り、同じボクシング部の主将を務める3学年と同部屋になった。

 

前回の記事にも書いたが、同じ校友会(部活)の上級生は味方になって守ってくれる貴重な存在である。

 

そもそも、同じ中隊に校友会の上級生がいるというのはそれだけでラッキーなことである。なぜならそれは、厄介な「敵」が1人減ることを意味するからだ。 

  

しかしNさんは、校友会の先輩でもある同部屋の3学年から暴行を受けることとなる。

 

ある日、この3学年が早朝の点呼に寝坊した。

 

防大の一日は、朝6時の「起床ラッパ」とともに始まる。

 

ラッパ音で飛び起きると、シーツと毛布を決められた形にきれいに折りたたんでベッドの上端に積み重ね、作業服に着替えて(乾布摩擦をするため上半身は裸)5分以内に屋外に整列完了することが求められる。

 

日朝点呼は各大隊毎に学生舎前で行われるため、大隊(1個中隊120人×4=約480人)の学生全員が揃うまで終わらない。

 

つまりもし1人でも寝坊するようなことがあれば、同じ大隊に所属する400名以上の学生が上裸で乾布摩擦をしながら、その1人を待ち続けることになる。真冬に下級生が寝坊でもした日には、それこそ殺意が芽生えてもおかしくはない。

 

仮に下級生が寝坊した場合、「神」である4学年を待たせることになるわけである。

そのような事態が起きないよう、1学年は部屋を出る前に必ず、同部屋の上級生(特に3学年)が起床しているかどうかを確認しなければならない。

 

中期からは各部屋1学年2~3人ずつが基本編成となるので、おそらくNさんともう一人か二人の1学年は自分たちが急いで集合することに気を取られるあまり、この確認作業を怠ったのであろう。

 

その結果、点呼に寝坊した3学年はなぜ起こさなかったのかとNさんに詰め寄り、顔を殴った。Nさんの口は切れ、唇は腫れ上がった。

 

さらにその後、この3学年はNさんの陰部を掃除機で吸引するという暴行を複数回にわたり繰り返したという。

 

このエピソードを聞いて、多くの人はこう思うだろう。

「寝坊したのは完全に自己責任であり、それを下級生のせいにして暴力を振るうなんて最低だ。いくらなんでも理不尽すぎる。ましてや陰部を掃除機で吸うなんて悪ふざけが許されるわけがない。被害者のNさんがかわいそうだ」

 

全くもって正論である。

このような感想を抱いた方は、社会一般的に正常な感覚をお持ちの人と言えるだろう。

私も同じように思う。

 

しかしその一方で、こうも思う。

「その部屋の1学年達やらかしたなー。ましてや同じボクシング部の上級生を起こさないのはさすがにないわ。中期にもなってキャパ低すぎだろ」

 

Nさんを殴ったことに関しては絶対的に間違っている。

いくらボクシング部の主将でも、校友会以外の時間にリングの外で人を殴るのはルール違反だ。

 

それは大前提であるが、それでもNさんが殴られたのもわからなくはない。

 

Nさんが殴られたのは、おそらくこの一件だけが原因ではないはずである。

 

たしかにこの出来事が暴力の引き金となった直接的な原因なのかもしれないが、殴った3学年にしてみれば、同じ校友会の後輩でもある分、他の上級生以上にそれまでの積もりに積もった様々な思いがあったのであろう。

 

このエピソードを聞いただけでも、ある程度は察しがつく。

それに関しては私以外の、他の防大OBの多くが同調するはずである。

防大生活を4年間送った者であれば感覚的にわかるのだ。

 

もちろん、だからと言ってこの3学年を擁護するわけではないし、どんなに忌憚に触れる下級生であっても、手を出したら負けである。

暴力指導はあってはならない。

 

それよりも掃除機で下級生の陰部を吸うな!汚いだろ!

その掃除機は国民の血税で購入されたものだぞ変態3学年め!

 

(つづく)

【解説・所感】NNNドキュメント「防衛大学校の闇」①

先日放送されたNNNドキュメント防衛大学校の闇」を観て、OBの視点から見た簡単な解説に加え、少し気になった点を書いておきます。

来週の日曜に再放送があるということと、youtubeとDailymotionには即日上げられていたので参考までに。

なお、本稿はすべて私の個人的見解であり、防衛省自衛隊ならびに防衛大学校とは一切関係ありません。

また、ご質問等があればメールにてお願いします。

 

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さて、原告のNさんは入校してまもなく、同部屋の1学年とともに部屋長(4学年)から全裸の写真を撮らされたり、裸で腕立て伏せをさせられたり、外出先で知らない人との写真を100枚撮って来いと命じられたり(これを防大用語で「指令外出」という)、「粗相ポイント」が20を超えたら風俗店に行って性行為中の写真を撮ってくるよう命じられたりしたという。

 

そして部屋長に逆らうことはできず、他の同期は指令にすべて従ったが、Nさんだけは風俗の件に関して頑なに拒否をした。その結果、陰毛にアルコールを噴射され、火をつけられた挙句カミソリで剃毛され流血したとのことである。

 

このエピソードについて第一に言えることは、Nさん他その部屋の1学年は、残念ながら運が悪かった。

入校したての1学年に対する「私的な非行」を楽しむような前期(4月~7月)の部屋長は、中隊(約100〜120人)どころか大隊(4個中隊で1個大隊)に1人いるかいないかレベルの「終わっている4学年」である。

 

基本的に1学年にとっては、同部屋の上級生と上対番(※)、そして同じ校友会の上級生以外の上級生は全員敵である。つまり学生舎においては、常に周りは敵だらけという環境で生き抜くことが防大生活の与件となる。

 

(※)防大着校日から専属の世話係として、何から何まで面倒を見てくれる兄貴分の2学年(場合によっては3学年)のこと。面倒を見る側の対番学生を上対番、見られる側の1学年を下対番という。下対番の人間性によっぽど問題がない限り、上対番は1学年時のみならず、上対番が卒業するまでの間ずっと目を掛け続けてくれる(はずである)。

 

周りを敵に囲まれた防大1学年は例外なく、自室から一歩廊下に足を踏み出せば、すれ違う敵(上級生)に次から次へと「指導」を受ける防大では「シバかれる」という表現が使われる)。それも、これでもかという程に鬼の形相をした威圧的な敵にシバかれるのだ。

 

指導の内容としては、制服・作業服の着こなし方がおかしい、プレス(アイロン掛け)が甘い、チャック(ファスナー)が一番上まで上がっていない、帽子が曲がっている、名札が曲がっている、ハンカチ・ティッシュ・メモ帳を常備していない、ポケットのボタンが空いている、靴の磨きが不十分である、襟章が光るまで磨かれていない、敬礼のタイミングがおかしい、敬礼時の挙手の角度が正しくない、挨拶の声が小さい、廊下をちんたら走ってんじゃねえよてめぇ!目が合ったのになんで敬礼しねえんだよ?あ?舐めてんのか?等々、上級生にしてみれば1学年をシバくためのネタは無限にある。

 

そして指導の終わりに付いてくるオマケ的な殺し文句が

 

「あとで俺の部屋に来い」

 

いわゆる「呼び出し」である。

呼び出しに応じ部屋に出向けば、その時、その部屋に居合わせた全上級生が総がかりでシバきにかかることになる。世にも恐ろしいALL-OUT ATTACKが繰り広げられるのだ。

 

入室要領(自室以外の部屋に入る時のルーティン動作)は格好のシバきネタであり、始めのうちは正確にできるわけもなく、「やり直せ!」のループに陥り、いつまでも部屋の中に上がることが許されない。

部屋に上がれなければ、元々の呼び出しが消化されない。

入室要領を繰り返すうちに新たな呼び出し案件が追加で発生するなどは日常茶飯事だ。

そして自室に帰るまでの間に、廊下で遭遇した上級生にシバかれ、また呼び出しを食らう。まさに踏んだり蹴ったりである。

  

そのような日常であるからこそ、親身になって自分を守ってくれる同部屋の上級生、とりわけ部屋長というのは、1学年にとって極めて重要な存在なのである。

 

特に入校して最初に配属される部屋の4学年というのは、部屋っ子の1学年に積極的に話しかけてメンタル面でのフォローをしたり、落ち込んでいれば励まし元気づけたり、防大で生き抜くために必要なアドバイスをしたり、また休日には外に連れ出してご飯をご馳走したりと、かなり面倒見が良い場合が普通である。

 

それが前期の4学年に与えられた役割の一つであるし、何より自分自身が入校当時、前期部屋長の姿を見て「こんな4学年になりたい」と思わされた記憶が、皆少なからずあるからである。めざすべき防大生の姿を模範となって1学年に見せることが、前期の4学年には求められるのだ。

 

しかしNさんが当たった部屋長はそれを理解していなかった。

 

それだけでなく、やっていいこととやってはいけないことの分別がつかない部屋長であった。

 

より正確に言えば、それをやっていい相手かどうか、やっても問題のない時期にあるのかどうかを判別する能力が欠けていた。

 

その行為を「いじめ」と捉える相手に対してやってしまえば、それが「いじめ」になってしまうのは当然であるということがわからない4学年であった。

 

だが、そのような部屋長の部屋っ子になってしまったNさんにとって、それはどうにもならないことである。

先輩や上司・上官は選べない。

それは防大をはじめ軍事組織に限った話ではなく、中学生も高校生も、あるいは民間のサラリーマンも、自衛隊以外の公務員も、組織に属する人間は皆同じである。

 

では何が正解であったのか。

Nさんはどうすれば良かったのであろうか。

 

繰り返しになるがもちろん、部屋長によるNさんら1学年に対する一連の行為は明らかに間違っている。

自分が楽しむために立場が弱い者に対して何かを強要するというジャイアニズムは、個人的にも好きではないが、防大生であればせめて4学年に上がる前までには自重しておくべきである。

 

また何よりも、このような事案は「あってはならないこと」であるし、自衛隊の指揮官になろうという防大生にとって最も「してはならないこと」の一つである。

 

しかし、それは実際にあった。

実際に起きた。

「粗相ポイントが20を超えたら、風俗店に行って性行為中の写真を撮って来い」とNさんは部屋長に命じられた。

おかしな話だ。理不尽極まりない。

 

ではその時、Nさんと同じ状況にあった同部屋の同期たちはどのような行動をとったであろうか。

 

防大の学生舎という閉鎖空間において、4学年である部屋長は「神」の立ち位置にある。

一方、Nさんら1学年は「ゴミくず以下」の存在だ。

番組内でもOBの一人がそのような類の証言をしているシーンがあったが、言葉通りの意味にとって問題ない。

 

また、「ゴミくず以下」の1学年に与えられたオプションはYES(「はい」)かNO(「いいえ」)の2択である。

 

以上を踏まえ、もう一度問いたい。

Nさんの同部屋の同期は、そのような状況下でどのような行動をとっただろうか。

そしてなぜ彼らはその選択をしたのであろうか。

その選択は本意に基づくものであったのだろうか。

 

ここで言いたいのは、Nさんも皆に合わせて同じ行動をとるべきであったとか、そういったチープな話ではない。

もっと本質的な話である。

 

なぜ防大の学生舎では「理不尽」がまかり通っているのだろうか。

組織全体で「理不尽」な環境を敢えて作り出しているようにさえ思えるのはなぜか。

 

そういった視点で見れば、「防衛大学校の闇」にも、また違った意味を見出せるはずである。

 

(つづく)