CIAの「強化尋問技術」――米上院情報特別委員会調査報告書

Senate Panel Faults C.I.A. Over Brutality and Deceit in Interrogations

 

Senate report on CIA program details brutality, dishonesty - The Washington Post

 

米中央情報局(CIA)がブッシュ政権期に行っていた非人道的な尋問、「強化尋問技術(Enhanced Interrogation Techniques: EIT)」の実態に関する、6000頁以上に及ぶ上院情報特別委員会調査報告書の要旨が公表され、様々なメディアで大きく取り上げられている。

 

要するにCIAがテロリストから情報を引き出すために、蹴ったり殴ったり裸にガムテープをぐるぐる巻きにして引きずり回したり、一週間以上も寝させなかったり、水責めしたり氷風呂に入れたり直腸に色々流し込んだり、家族に危害を加えると脅したりしていたということが公になったという話である。

 

EITの対象になったのは拘束者119人のうち39人で、そのうち7人からは何の情報も引き出せなかった一方で、EITの非対象者からも正確な情報が上がってきていたことや、EITを受けた後に偽の情報を述べていた者が複数いたことなどから、報告書は非人道的なEITに効果はないと結論づけている。

 

オバマ大統領は一期目の就任直後、EITを含む非人道的な尋問を禁止しているが、今回の報告書に関する声明の中で、CIAによる事実上の拷問は「国際社会におけるアメリカの地位を著しく傷つけた」とし、アメリカが「こうした手法を用いることは二度とない」と述べている。

 

アブグレイブもそうだが、何もアメリカに限った話ではなく、こういった残虐な行為は世界の至るところで実は日常茶飯事なのかもしれない。映画の中だけでなく現実に起こっているのだろう。この世界は本質的に「ホッブズ的世界」であり、「カント的世界」はその中のほんの一部の領域を占めるにすぎないのだ。

 

諜報機関や軍隊、あるいはそっちの世界に生きる人たちは昔からこういう手法を使っていたのだろうけど、この手の話を聞く度に「ああ、人間って怖いな」と率直に思う。

 

僕は幸運なことに、小さな頃からいじめや暴力とは無縁の世界で育ってきて、初めてそれに近いものを目の当たりにしたのは防大に着校した日である。今でも鮮明に覚えているが、その時は本当に衝撃的だった。世の中にはこんな世界があるんだなと本気で恐怖した。

 

当時の上級生は非常に威圧的で暴力的であったが、それも所詮「作られた世界」の話であって、どうやらこの世界には、目的のためには手段を選ばないような「本物の人間」、換言すれば「汚い大人」がたくさんいるらしい、ということに気付いたのは割と最近である。そしてたちが悪いのは、そういう人間に限って表面上は倫理や道徳を振りかざし、その醜態を隠そうとしていたりすることである。

 

「カント的世界」でふわふわと生きてきた自分が「ホッブズ的世界」で生き抜くためには、自分なりの確固たる戦略をもたなければならない。そんなこんなで、戦略をライフワークに組み入れようという考えに至ったわけである。まあウソですけど。

 

どうでもいいけど、 A hard pill to swallow(「飲み込み難い錠剤」)と題された英エコノミスト誌の記事の中で、「強化尋問技術」は拷問をオーウェル風に表現した語であると書かれている。イギリス人のインテリはやたらオーウェルに還元したがるというのは本当のようだ。