読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

在沖縄米軍のプレゼンスにみる日米同盟の今日的意義①

11月23日(日)に京都大学11月祭にてセミナー講演を開催します。

テーマは「普天間基地移設問題」です。

 

昨日16日に投開票が行われた沖縄県知事選では現職の仲井真知事が敗れ、普天間基地辺野古への移設阻止を標榜する前那覇市長の翁長氏が当選しました。しかし日米合意から20年近く経過している辺野古への基地移設をこれ以上滞らせてしまうというのは、日本の安全保障政策上、極めて非合理的であり非現実的であると言わざるを得ません。以前の記事でも取り上げたように、日本の対中抑止力という観点から日米同盟の深化は欠かせないからです。

 

しかしその一方で、米軍基地の存在、時に米軍兵が沖縄の地元住民の生活に与えてきた影響の負の側面を軽視すべきではありません。可能な限り沖縄の負担を国全体で分担していく政府の努力は不可欠です。沖縄の在日米軍基地の抑止力を維持・拡大しつつ、地元住民の負担を軽減する政策を追求することが求められます。

 

というわけで、普天間基地移設問題を考える上での前提とも言うべき「日米同盟の今日的意義」について、在沖縄米軍のプレゼンスとその抑止力という観点から考えみたいと思います。

 

------------------------------

 

第二次世界大戦で敗北を喫した日本は、アメリカ主導の下、連合国軍総司令部GHQ)の支配下に置かれ、一時的にではあるが主権を失った。日本の独立の契機は1951年9月8日に調印されたサンフランシスコ平和条約締結であり、この対日平和条約締結と同日、日本はアメリカとの間に日米安全保障条約を締結した。この日米安保条約締結以来、日本の歴代内閣は、アメリカとの同盟関係を基軸とし、「親米」「経済重視・軽軍備」を掲げるいわゆる「吉田路線」を外交・安全保障政策の基盤に据えてきた。

 

日米同盟の本質は、日本が軽武装にとどまり国外での軍事的なコミットメントを最小限に抑える一方で、米軍に基地を提供することによって、アメリカに対して安全保障面での協力を求めるというものである。それゆえ、日米同盟が日本の安全保障政策の根幹をなす限りにおいては、特に沖縄にみられるように、在日米軍施設・区域が周辺地域社会ないし地元住民の生活に与える影響に関する問題は、日本の安全保障政策の重荷として常に付き纏うもののように思われる。そして日米同盟に付随する沖縄の米軍基地問題についてアメリカ政府側は、あくまで日本の中央政府が解決すべきものであるという姿勢を崩すことはない。

 

しかし、日本のみならず東アジアの平和を米軍に依存する吉田路線の代償として、米海兵隊をはじめ陸・海・空軍の基地が集中する沖縄の地元住民は、日本政府に多大な犠牲を押し付けられてきた。現在沖縄には、在日米軍施設・区域の約74%が集中していることもあり、本土に比べ反米感情が強く、戦後から現在に至るまで地元住民を中心とした反米抗議デモが展開されてきた。たとえば、1995年の米兵少女暴行事件に対する抗議デモや、2004年の在日米軍ヘリ墜落事件直後の沖縄国際大学での抗議集会には、それぞれ数万人を超える参加者が押し寄せている。

 

それにも拘らず、なぜ在日米軍基地は沖縄に集中し続けており、これまで移転が実施されてこなかったのであろうか。以上のような問題意識に基づき、本稿では、日本の安全保障戦略およびアメリカの東アジア戦略を概観しつつ、海兵隊を中心に在沖縄米軍のプレゼンスを再検討することで、日米同盟の今日的意義を考察したい。また併せて、日米同盟の今後の展望にも簡単に触れたい。

 

日本の安全保障戦略と日米同盟

 

(1)日本の安全保障環境

2013年12月17日に閣議決定された「国家安全保障戦略」の冒頭にも見られるように、近年、日本の安全保障環境はますます厳しさを増しているといわれる。

 

たとえば、朝鮮半島においては非武装地帯を挟み南北150万以上の正規軍が対峙しており、台湾海峡においても中台の軍事力が拮抗している。また、北朝鮮のミサイル発射実験や核開発は、隣国である日本からすれば、まさに伝統的な安全保障上の脅威が身近なところにあるということになる。そして、アルカーイダや「イスラム国」のようなイスラム原理主義勢力や過激派によるテロの脅威を強く感じることはないものの、北朝鮮による拉致問題や麻薬の密輸に代表される不法行為は、紛れもなく安全保障上の脅威である。

 

そして何よりも懸念されるのが、過去25年間、日本の軍事費がほぼ横ばいで推移して来た一方で33倍に増強してきた中国の動向である。ASEAN諸国との軍事接触を見てもわかるように、中国にとって小規模な軍事力の行使は外交の一手段にすぎない。また、2007年1月に中国が行った衛星破壊兵器による自国の衛星撃墜実験にみてとれるように、宇宙での破壊行為の蓋然性は、アメリカや日本がGPSや衛星通信などの宇宙インフラに大きく依存していることを鑑みれば、新たな脅威の顕在化に他ならず、さらに「第五の戦場」ともいわれるサイバー空間における中国の動向にも配慮する必要がある。

 

以上のように日本の安全保障環境は、きわめて多数の脅威に取り巻かれている状態にある。

 

(2)日本の安全保障戦略における日米同盟の位置付け

このような脅威に晒された日本の安全保障戦略とはいかなるものであるのか。

 

戦力の不保持と交戦権の否認を定め、軍事力の役割をきわめて限定する憲法9条は、賛否どちらの立場に立つにしろ、日本の反軍国主義の政治文化ないし社会規範を象徴するものである。たとえば、トーマス・バーガーやピーター・カッツェンスタイン、アンドリュー・オロスといった海外の研究者にも指摘されるように、憲法9条は日本の安全保障政策において主要な基本原則として作用し続けており、戦後日本の反軍国主義的安全保障論の要であると位置付けられる。

 

しかしながら、国内における反軍国主義の気風と国家の安全保障政策は切り離して議論されるべき問題である。反軍国主義であるから自国の安全を慮らないということにはならないはずであるが、実際のところ、日本の安全保障戦略というのは、同盟国アメリカの安全保障戦略の一部として親米の安全保障論にいきつくか、あるいは逆に非現実的な反米の非武装安全保障論に走るかのいずれかを語るにとどまってきた。

 

現行の憲法9条を前提にするのであれば、日本の安全保障戦略は日米同盟を基盤とし、日米関係の発展・深化を図りつつ、国家防衛のための最大限の自助努力を重ねていくというスタンスが現実的である。ゆえに、日本の安全保障環境が多数の脅威に取り巻かれている現状において、日米安保体制は「わが国防衛の柱」であり、日米同盟は「アジア太平洋地域の平和と安定のために不可欠な基礎をなすもの」であるといえる。2014年7月1日、限定的ではあるものの日本が集団的自衛権を行使できるよう憲法解釈の変更が閣議決定されたのは、まさにこういった背景がある。

 

アメリカの東アジア戦略

 

(1)アメリカにとっての東アジア

安全保障をアメリカに依存する日本に対して、アメリカは日本を、あるいは日本が属する東アジア地域をどのように位置付けているのであろうか。

 

オバマ政権外交政策における最優先課題は、ブッシュ政権から引き継いだアフガニスタン戦争の処理であると考えられるが、これに次いで優先的外交課題と位置付けられるのが、急速にその勢力を拡大し続ける「イスラム国」への対処、大量破壊兵器WMD)の拡散およびテロの防止、中東和平、イランと北朝鮮の核開発問題、ウクライナ問題の渦中にあるロシアとの核軍縮、米中関係の安定化などである。これらの中でどれが最も重視されるかはその時々の状況によって変動するであろうが、東アジアには中国と日本という二大経済大国が存在する以上、アメリカにとってこの地域の重要性はきわめて大きなものであるといえる。

 

また、東アジアには安全保障面に関しても、アメリカにとって複数の懸念事項が存在する。とりわけ緊迫している問題は北朝鮮の核・ミサイル開発であり、あるいはそれらの兵器のテロ組織への拡散である。より中長期的な安全保障上の問題としては、中国の着実な軍事力強化であり、また、将来にわたる米ロ間の大幅な核軍縮に伴う中国の核弾頭保有数の動向も懸念材料となっている。これらの懸念事項が存在する限り、東アジアはアメリカにとって決して軽視できる地域にはなりえない。事実、2011年11月17日にオバマ大統領はオーストラリアのダーウィンでの演説において、アジア太平洋地域を重視していく旨を宣言しており、以来「リバランス」政策が推進されてきた。

 

(2)アメリカの東アジア戦略における日米同盟存続の意義

オバマ政権の東アジア重視戦略が表明されて以降、中国はアメリカのアジア重視政策は対中封じ込め政策であると非難し、不快感を露わにしてきたが、オバマ大統領は21世紀をアジア太平洋地域の時代であると位置づけ、TPPの枠組みをアメリカが主導することによって、アジア太平洋地域においてリーダーとしての役割を担おうとしている。また、アメリカの国際政治に対する基本戦略は、世界的影響力を維持して自国の自由、民主主義、安全と経済的繁栄を保持することであり、そのためにはユーラシア大陸の両端に位置する島国であるイギリスと日本を重要拠点として確保する必要がある。

 

さらに、東アジアにおける日本の地政学的重要性と日本の国力は、アメリカがアジア地域での政治的、軍事的影響力を維持し、中東などへの戦力投入のための前方展開をし、かつ自国の経済的安寧をはかるための「要石」となっているのである。特に日本の地政学的重要性は、日米同盟が存続することによってアメリカ側が得る最大の便益であり、アメリカの東アジア戦略、ひいては世界戦略に欠かせないものであることから、今後もアメリカは日米同盟を重視していくことが予想される。

 

在沖縄米軍のプレゼンスにみる日米同盟の今日的意義②