人民解放軍30万人削減発表の意図

China Announces Cuts of 300,000 Troops at Military Parade Showing Its Might

 

9月3日、中国は天安門広場にて「日本の戦争の罪を強調し、戦争における中国共産党の役割を美化するために考案された」抗日戦争・反ファシズム戦争勝利70年記念式典を執り行った。

 

式典は70発の礼砲で始まり、国旗掲揚に続いて行われた国家主席演説の中で、習近平は中国が「祖国の安全と人民の平和な生活を守るという神聖な義務に忠義を尽くし、そして世界の平和を守るという神聖な義務に忠義を尽くす」中国人民解放軍の人員30万を削減する予定であることを発表した。

 

習近平のこの演説に関して、中国側の狙いは、軍拡および現状変更的な動向、とりわけ南シナ海で顕著な強制外交に対する各国からの批判をかわすことにあると日本の多くのメディアでは報じられている。しかし何のことはない、これはただの軍隊の近代化の一過程、ある意味では「軍備増強」の再確認であると見ることができる。

 

人民解放軍の兵力や装備、組織構成は公式に情報公開されているわけではないが、総兵力は約230万、うち陸上兵力が160万を占めると推定されている。少子高齢化が急激に進む中国では軍内部でも「尻すぼみ」問題が深刻化しており、予てから兵員削減が実施されてきた。そして同時に軍隊の近代化、すなわち陸上戦力重視から海・空戦力重視へのシフトが急ピッチで進められている。中国は陸上兵力の削減による余剰資金を海・空戦力に投資し、その増強を図っているのである。

 

要するに30万人削減発表は、これまで進められてきた「ランドパワー(Land Power)からエアシーパワー(Air-Sea Power)へのシフト」という中国の安全保障戦略が、習近平によって改めてアナウンスされたにすぎない。

 

これはある程度の知識とセキュリティ・センスがある人にとっては当たり前のことではあるが、多くの日本人にとってはそうではない。だからこそ、自衛隊の能力強化や集団的自衛権行使容認、あるいは日米同盟の深化による対中「抑止」ではなく、中国との軋轢は「対話」で解決すべきであるという意見が多く出てくるのであろう。

 

しかし、「対話による平和」を強調する人に限って、それがこちら側の意思だけではどうにもならないことを理解しようとしない。「片想いは通じない」のが冷酷な国際政治の現実である。その一方で、冷徹かつ合理的なバランス・オブ・パワーの追及こそが、東アジアの国際関係に安定をもたらす。少なくとも、現状変更国家である中国に「対話」を求めるよりは、よっぽど日中間の武力紛争を抑止する効果を発揮するのではないだろうか。

 

もう一つ、「121歩」(国旗掲揚時の護衛隊の行進歩数121歩が日清戦争勃発から121年間を示している)に関しては過度に反応すべきではない。あんなものは中国国民の反日感情を煽るための単なるパフォーマンスであり、いちいち挑発に乗っていてはキリがない。

 

要は相手と同じ土俵には決して乗ることなく、戦争をしない、させない平和国家であり続けるために、どこまでも冷静に、今やるべきことを淡々とこなすことである。

文藝春秋SPECIAL 2015年 秋号

文藝春秋SPECIAL 2015年 秋号』に寄稿しました。

 

「戦略なき作戦 ミッドウェー真の敗因」(204-211頁)です。

 

今回は日米戦争の「戦局の転換」と言われるミッドウェー海戦を、戦術や戦闘のミクロ・プロセスに焦点を当てるのではなく、よりマクロな戦略の視点から捉え直し、そこから得られる歴史の教訓について考えてみました。

 

安保法案に関する報道を見てもわかるように、安全保障に関する議論というのはどうしても感情論や近視眼的な思考に陥りやすいものですが、日本が過去の過ちを二度と繰り返すことなく平和国家であり続けるためには、どこまでも「歴史に学ぶ」姿勢が必要なのではないかと思う今日この頃です。

 

文藝春秋SPECIAL 2015年 10 月号 [雑誌]

文藝春秋SPECIAL 2015年 10 月号 [雑誌]

 

 

『ゆとり~』について

7月7日発売の『ゆとり世代の若者たちがいま戦争について考えていること』ですが、先にも書いた通り対話形式・口語で、非常にカジュアルです。戦争と平和、安全保障がテーマの本とは思えないくらい軽~く書きました。

 

筆者二人の対話かと思いきや、イノッチとまー君の対話本です。

イノッチとまー君って誰だよ!と思った方はぜひ中身をお読みいただければと思います。

 

最近、安保法制に関するニュースがテレビなどで連日取り上げられ、何やら難しい話をしていますが、賛成だろうが反対だろうが、それ自体は別にどっちでもいいのです。「ああ、何か難しい話してるな」くらいでもいいと思います。

 

大事なのは、それについて自分はどう感じるか、何を考えるかということであり、自分自身の反応・思考に気付くことです。

 

「ああ、何か難しい話してるな。でもちょっと聞いてみよう」

 

自衛隊の駆けつけ警護が可能になる?駆けつけ警護って何?そもそも自衛隊って海外で何してんの?」

 

集団的自衛権…よくわからないけど、目の前で殴られている友達がいたら助けるんじゃね?」

 

「このおっさん、さっきから何言ってるんだろう。話に筋が通ってないし。そんなことよりこの人完全にヅr(ry

 

最初の取っ掛かりさえあれば、こんな感じで次々と思考が湧いてくるはずです。

あとは自分の思考の連鎖を意識的に追っていくと、自分の興味・関心に即した問題意識がだんだん浮かび上がってきます。

その問題意識に合わせて、少しずつ本を読んでみるなどしていけばいいのではないでしょうか。

 

安全保障だからといって肩肘張らずに、ぜひイノッチとマー君のように軽いタッチで捉えてみてください。

 

日本の平和・安全保障は一部の政治家や専門家だけの問題ではありません。

たしかに政策を決定するのは一握りの政治エリートですが、誰が政策を決めるのか、それを選ぶのは私たち一般国民に他なりません。

 

無知・無関心は結局自分に返ってきます。

殊この分野に関しては、取り返しのつかない形で。

 

まずは興味・関心をもち、自分なりに考えてみることからすべてが始まります。

もしかしたらこの本の出版目的は「1億イノッチ・まー君化計画」(?)なのかもしれません。

『ゆとり世代の若者たちがいま戦争について考えていること』

7月7日に、『ゆとり世代の若者たちがいま戦争について考えていること』(こう書房)が発売になりました。

 

今回は前作『防衛大学校で~』とは趣向を変えて、対話形式でめちゃめちゃカジュアルに書いてみました。

 

なのでサクッと読めてしまうはずです。

 

ぜひゴロゴロしながらでもお読みいただければと思います。

 

よろしくお願いします。

 

ゆとり世代の若者たちがいま戦争について考えていること

ゆとり世代の若者たちがいま戦争について考えていること

 

 

「乙武塾」平和講義Ⅱ

gendai.ismedia.jp

 

だいぶ遅くなってしまいましたが、「乙武塾」平和講義Ⅱが公開されています。

 

ぜひご覧ください。

「乙武塾」平和講義

gendai.ismedia.jp

 

以前、乙武洋匡さん主宰の「乙武塾」にお招きいただいた際に実施した平和講義の内容の一部が、講談社のWEBメディア「現代ビジネス」にて公開されています。

 

よろしくお願いします。

安倍首相米議会演説

www3.nhk.or.jp

 

米議会上下両院の合同会議での安倍首相による演説の全文が公開されているので、ぜひ目を通して、日本の安全保障という観点から、この演説にどのような意義を見出せるのか、自分なりに考えて頂ければと思います。

 

なぜこのタイミングで安倍首相は米議会、それも両院の合同会議で演説することを決意し、どのような意図をもってこの内容を語ったのか、そしてこの演説が今後の日本の安全保障にどう作用していくのだろうかという視点に立って考えてみると、頭の中が整理されるのではないでしょうか。

 

そうして出てきた自分なりの「答えらしきもの」を、今度はあらためて視点を変えて、たとえば二項対立的に捉え直してみたりすると、それがいかに信念や固定観念、思い込みといった「常識」に依拠したものであるのかが浮き彫りになるはずです。

 

自分にとって「正解」だと思っていたもの、或いは自分にとっての「常識」を疑ってみることで、よりフラットな視点から物事を冷静に眺めることができるようになります。

 

僕自身もそうなのですが、自分がどれだけ論理的に思考を積み重ねていっているつもりであっても、その「論理的」な思考と思考の間には、無意識のうちにさまざまな前提条件が入り込んでいるものです。その無意識の条件付けを外していくためにも、「疑う」というプロセスはかなり重要な意味をもちます。

 

何でもそうなのですが、特にイデオロギーや感情論に行き着きやすい安全保障の問題を考えるときには、「本当にそうか?」と疑ってみることを、自分の中でひたすら繰り返していくことが、遠回りのようで実は一番近道なのではないか、などと思う今日この頃です。